100日後に死ぬワニ−コンテンツビジネスを巡る法的な議論

100日後に死ぬワニ(100ワニと言います。)というクリエイターがSNS上で個人発信したコンテンツが社会現象を引き起こしました。

個人発信を元に社会現象が生じるというこの時代を象徴する出来事と言えるのではないでしょうか。

また、その後のマネタイズ段階での広告のあり方を巡って、議論を巻き起こしました。この観点からも興味深いコンテンツだったと言えます。

コンテンツマネタイズとしての書籍化

100ワニについては、書籍も販売されています。

書籍を購入しましたが、数本の描き下ろし漫画は収録されているものの、その殆どが既にSNS上で既発表のコンテンツでした。この様に既発表のコンテンツを紙媒体に収録している点に書籍の付加価値があると考えられ、SNS時代のコンテンツのマネタイズとして興味深い事案に感じられました。

書籍帯についての優良誤認表示との指摘

上記の引用リツイートで引用している記事において、100ワニ書籍の帯の宣伝が優良誤認表示に当たるのでは無いか、と指摘されています。

不当景品及び不当表示防止法は、「不当な表示の禁止」を定める同法第五条柱書において、「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」と定め、下記各号を置いています。

すなわち、同条一号「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」。

同条二号「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」。

そして同条三号「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」の3点です。

このうち、同条一号の「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し」てはいけないとする優良誤認表示規制に反するのではないか、という指摘です。

確かに、巻末のマンガが少ないな、と感じたのは正直な感想です。反面、帯には後日譚「等」描き下ろし漫画28p収録!と書かれています。このように、巻末の「後日譚が28p」ではなく、後日譚を「含んだ描き下ろし漫画」が28pという宣伝になっています。

そして、帯に言う「漫画」に書籍内に挿入された19箇所のカットが含まれていることは確実です。なぜなら、この19点のカットを帯に言う「漫画」に含めなければどう考えても28pという数字にならないからです。

そうすると、ここで問題になるのは「漫画」の意味かもしれません。そして、漫画は本来1コマのものも含むことや、書籍に挿入されたカットが、同一ページの4コマ漫画と関連していて、5コマ目の役割や、2.5コマ目、3.5コマ目などの役割を担っていることなどが、出版社側が漫画28pとした論拠になり得るのでしょう。

しかし反面、帯を読んだ消費者が少なくとも描き下ろし4コマ漫画が28p(つまり、4コマ漫画28点)収録されていると考える可能性も高いところです。

実際に自分も巻末の後日譚4コマが少ないことには少しがっかりしたのは事実です。

そうすると、少なくとも帯の表記は消費者にフレンドリーとは言えないように思われます。

SNSの利用許諾との関係

ところで、100ワニはTwitter、Instagram上で連載され、連日の様にBUZZった(拡散された)ことで、社会現象に至りました。

しかし、SNSの利用規約から、SNSの公式ウィジットなどを利用して誰でもインターネット上で100ワニをまとめたサイトなどを公開できる可能性があります。

この場合、すでに公開されているいつでも誰でも閲覧できるコンテンツを、「まとめる」ということがマネタイズの付加価値とすれば、少なくともインターネット上においては、誰しもがこの利益に与れてしまう、ということになりかねません。

しかし、社会現象を起こしたコンテンツについてSNSの公式ウィジットを介すれば誰でもコンテンツを自身が管理するウェブサイトに表示できるというのは、権利者の利益に対する影響が大きいものと考えられます。この辺りは、この時代の知的財産権を巡る新たな論点なのかも知れません。

また、掲載時点で少なくともTwitterやInstagramなど、SNSのプラットフォーマーに対しては、自由な利用を許諾していることになってしまいます。

この辺りは、コンテンツをSNSにアップした時点で生じていなかった知的財産、例えば、SNSで拡散されたことで発生し、獲得されるに至ったキャラクターの著名性や、社会現象となった後に取得された商標などを媒介として保護する、というアプローチも考えられます。

しかし、SNSの利用規約はあらゆる知的財産権を許諾対象としている場合が多いため、そのようなアプローチが本当に有効かは、疑問もあります。今後の議論の集積が待たれる部分では無いでしょうか。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

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