インターネット上の名誉権侵害、プライバシー権侵害、商標権、著作権等知的財産権侵害と転載・まとめサイト

インターネット上の名誉権侵害、プライバシー権侵害、商標権、著作権等知的財産権侵害についてはおおよそ2つの法的手段が考えられます。
削除要請及び損害賠償請求です。そして、情報発信者に対する損害賠償請求等の必須の前提となるのが発信者情報開示請求です。
このうち、削除要請は事実上の可否は置くとした場合誰に対して行うことも特に法的な制限はありませんが、損害賠償請求はプロバイダに対しては原則的に制限されています(プロバイダ責任制限法3条1項)。

この問題を考える際に役に立つ素材として、所謂転載・まとめサイトがあります。転載・まとめサイトは、大手掲示板の書き込み内容をコピーしたり、まとめたりした2次的ウェブサイトで、アフィリエイトなどの収益を収入源にしている例が多いようです。

まず前提として、転載・まとめサイトについては、そもそも元の掲示板に情報を投稿した者と、転載・まとめサイトに情報を転載したまとめサイト管理人双方が情報をサーバーに記録したと観念できる点が特殊です。

そして、発信者情報開示でいうと、元の掲示板に情報を投稿した者のIPアドレスなどの発信者情報については、転載・まとめサイトでは取得していません。したがって、転載・まとめサイトに対して発信者情報開示請求を行っても情報の保有性が認められず奏功しない場合が多いと考えられます。

転載・まとめサイトに直接損害賠償請求を出来るのか

ただし、転載・まとめサイトに対しては不法行為に基づく損害賠償請求の余地があるのではないかと考えられます。すなわち、転載・まとめサイトにおいては、サイト管理人はプロバイダなのか、発信者なのか単純に割り切れない側面もあります。なぜなら、転載時に侵害情報をサーバーに投稿しており、転載・まとめサイト運営者には侵害情報の投稿者としての一面も見出し得るからです。

また、転載・まとめサイト運営者がコンテンツプロバイダなどのプロバイダサイドの側面が強いと認定されても、プロバイダ責任制限法3条1項但書が適用される場合、損害賠償責任は免れないことになります。この意味で転載・まとめサイト運営者が損害賠償請求を免れるためには2重のハードルが課せられているとも捉え得るのです。

元の掲示板における整理

掲示板における侵害情報投稿者(=情報発信者)

元の掲示板運営事業者=コンテンツプロバイダ

元の掲示板運営者にサーバーを提供している事業者=コンテンツプロバイダ

転載・まとめサイトにおける整理

掲示板投稿者(=情報発信者)。ただし、まとめサイトは情報を保有しない。

転載・まとめサイト管理人(=情報発信者とも、コンテンツプロバイダとも言い得る)

転載・まとめサイト管理人にサーバーを提供している事業者=コンテンツプロバイダ

では、転載・まとめサイト管理人にサーバーを提供している事業者(=コンテンツプロバイダ)に、転載・まとめサイト管理人の情報を開示請求できるのでしょうか。この点は、まとめサイト管理人が情報発信者に該当すると解されれば、可能と考えられます。すなわち、損害賠償請求の最初のハードルであった、まとめサイト管理人に情報発信者としての側面を見出し得るかという論点が、ここでもパラレルの議論として当てはまることになります。

裁判例

著作権法の判例として、例えば、平成16年 3月11日東京地裁判決判タ 1181号163頁は、「被告は本件電子掲示板を設置,運営する者であるが,本件電子掲示板は300種類以上の個別のテーマの電子掲示板から構成され,各個別のテーマの電子掲示板の中に多数のスレッドが存在していること,本件電子掲示板は公衆の用に供されている電気通信回線(インターネット)を介して無料でだれでも利用することができ,発言をしようと思う者は自由にスレッドに書き込みを行うことができるものであること,書き込まれた発言は直ちに機械的に送信可能化され,被告は送信可能化前に書き込みの内容をチェックしたり,改変したりすることはできないこと,本件各発言も,利用者たる本件発言者が本件スレッドに書き込んだものが機械的に送信可能化され,自動公衆送信されたものであること等の事情が認められる。上記の各事実に照らせば,本件各発言について送信可能化を行って本件各発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者であって,被告が侵害行為を行う主体に該当しないことは明らかである」と判示しています。

これに対して、控訴審である平成17年 3月 3日東京高裁判決判タ 1181号158頁は、「インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は、著作権侵害となるような書き込みをしないよう、適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく、著作権侵害となる書き込みがあった際には、これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は、少なくとも、著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には、可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし、更には、著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど、速やかにこれに対処すべきものである。本件においては、上記の著作権侵害は、本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり、本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ、この書き込みが継続していたのであるから、その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり、印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって、明白で、かつ、深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては、編集長…からの通知を受けた際には、直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ、発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず、被控訴人は、上記通知に対し、発言者に対する照会すらせず、何らの是正措置を取らなかったのであるから、故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない」と判示しています。

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

関連記事一覧

弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

お問い合わせ

    TOP