ウェブコンポーネンツと著作権

ウェブコンポーネンツ

ウェブコンポーネンツは、ウェブを構成する要素をカプセル化し、再利用することを志向する一連のアプリケーションプログラミングインタフェースです。本格的にサポートするブラウザも増えてきて、近年ようやく実用例が増えつつあり一般的なウェブサイト上でも実装の準備が整ったとも言われています。

従来のウェブページは一つの大きなHTMLで記述されていました。より柔軟かつ効率的なウェブデザインを実現するために、このウェブページの要素の細分化を図ったのが、ウェブコンポーネンツです。つまり、一つのWebページを大きな一つのHTMLから、複数の小さな要素の集合(コンポーネンツ)に変化させることを志向するものです。

ウェブコンポーネンツの基礎となる技術は、カスタムエレメンツ、シャドウドム、HTMLテンプレートの3つです。

ウェブコンポーネンツでできることの基本は、オリジナルの属性を持った要素を作成し(カスタムエレメンツ)、要素にしか作用しないCSSを実装し(シャドウドム)、そうしたオリジナルの要素をサイト内で自由に使い回しできる(HTMLテンプレート)ことです。

カスタムエレメント

pやH1などに代表されるHTMLの要素をオリジナルにつくり出せる機能です。<カスタムエレメント>ハローウェブコンポーネンツ</カスタムエレメント>というような使い方をします。

HTMLスタンダードにも記載があります。

シャドウドム

シャドウドムは、要素の表示を上書きします。シャドウドムによってカプセル化した要素のみにCSSの効果を波及させることができます。反対に当該要素の外にCSSの効果は及びません。

要素はオリジナルのものや、H1など従来のもの双方に設定できます。ただし、a要素などシャドウドムを設定できない要素も存在します。

また、外部CSSを呼び込んで適用することも可能です。

HTMLテンプレート

HTMLをテンプレート化して自由に使い回しできるシステムです。カプセル化した要素を使い回す際などに有用と思われます。

実装されなかったHTMLインポート

一部ブラウザの反対によりHTMLインポートは実装されませんでした。ただし、ESモジュールがその機能を代替するとの理解もあるようです。

ESモジュール

ESモジュール、JavaScriptモジュールは、ウェブコンポーネンツにおいては、HTMLインポートに期待された役割を代替すると理解されているようです。著作権との関係ではインラインリンク同様に限定的な事例ですが、複雑な問題を生む可能性があります。

ウェブコンポーネンツと著作権

ウェブコンポーネンツは固有の著作権上の問題を生み出すでしょうか。

ウェブコンポーネンツと著作者人格権

ウェブコンポーネンツは、固有の要素ごとに内容をカスタマイズし、特にシャドウドムは要素ごとに適用されるCSSを変えます。この時、CSSによる要素への影響について、リツイート事件などで問題となった著作者人格権侵害の問題は同様に生じるでしょう。

ただし、シャドウドムの場合現状ではカプセル化してCSSを適用する主体とCSSの適用を受ける客体の送信主体が分かれることは想定し難いと思われるので、侵害主体性の問題は大きくないかも知れません。

インラインリンクと同等の問題

基本的にウェブコンポーネンツの適用は同一のHTMLファイル内が原則です。実際にHTMLインポートは実装されませんでした。しかし、代替機能とされるESモジュールを利用したインポートによって外部のコンポーネンツを読み込むことも可能と考えられます。

この外部のカプセル化された要素の取り込みが一般化すれば、インラインリンクと同等の複雑な状況を生む可能性があります。

つまり、従来のインラインリンクの問題は、限定的な事例ではありますが、HTML、メディアファイル、CSSファイルの発信者が異なることから著作者人格権侵害の責任を負う主体は誰であるのかなどが問題となっていました。

この点、ウェブコンポーネンツにおいてもHTMLによるインポート、メディアファイル、エクスポートされるコンポーネンツの発信者がそれぞれ分かれるケースも想定されます。ただし、従来存在していたインラインリンクの場面と同様に主体は最大3者であることから、ウェブコンポーネンツはこの問題を徒に複雑化しないように思料されます。これまでの議論とおそらく同質的な議論になるものと思料されます。またこのような複雑な状況がインラインリンクと同様にそれほど多くの場面で生じないと思われます。

ただし、ウェブコンポーネンツの手法が一般化し、より高度化した場合、複数の主体が関係するウェブサイトという特殊な事例の絶対数自体は多くなるのかも知れません。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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