海外法人に対する発信者情報開示請求の裁判管轄

SNSなど海外法人が運営するウェブサービスで生じた権利侵害について、海外法人に対して請求する発信者情報開示請求事件について、管轄はどの様に考えるべきでしょうか。

本案訴訟

発信者情報開示請求は、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく請求となります。

では、日本でインターネットサービスを提供する外国法人に対する発信者情報開示請求訴訟において、日本の裁判所に管轄は認められるのでしょうか。

まず、当該外国法人が日本に事業所を有する場合は、民事訴訟法3条の3柱書及び第4号が、「事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの」については、「当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき」「日本の裁判所に提起することができる」と明記していることから、日本の裁判所に管轄権が認められます。

では、外国法人が日本に事業者や営業所を置かない場合はどうでしょうか。この点、法改正で新設された民事訴訟法3条の3第5号が「日本の裁判所に提起することができる」(民事訴訟法3条の3柱書)場合として次のとおり定めています。

民事訴訟法3条の3第5号
日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法 (平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え 当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。

この規定に基づいて、日本の裁判所に管轄権が認められると考えられます。では、日本のどこの裁判所に訴えを提起すれば良いのでしょうか。

この点について、民事訴訟法3条の3柱書及び第4号に基づいて日本の裁判所に訴訟を提起する場合、以下の定めにしたがい、事業所などの所在地を管轄する裁判所に訴えを提起することになると考えられます。

民事訴訟法4条5項
外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。

 

民事訴訟法5条柱書
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。

同5号
事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの
当該事務所又は営業所の所在地

これに対して、日本に事業所も営業所もない外国法人の場合、以下の規定に従って東京地方裁判所が管轄権を有することになります。

さらに、以下の規定に則り、東京地方裁判所内の事務分掌の問題として東京地方裁判所霞が関本庁が事件を受け付けているのが現状です。さらに、東京地方裁判所本庁内の事務分掌として、インターネット上の知的財産権侵害に基づく発信者情報開示については、東京地方裁判所知的財産権法専門部が担当します。これに対して、名誉毀損など知的財産権侵害を伴わない権利侵害事案については、通常部が対応します。

民事訴訟法10条の2
前節の規定により日本の裁判所が管轄権を有する訴えについて、この法律の他の規定又は他の法令の規定により管轄裁判所が定まらないときは、その訴えは、最高裁判所規則で定める地を管轄する裁判所の管轄に属する。

民事訴訟規則6条の2
法第十条の二(管轄裁判所の特例)の最高裁判所規則で定める地は、東京都千代田区とする。

仮処分

民事保全法7条により、上記の本案と同様に、日本に事業所・営業所のない外国法人の場合は、東京地方裁判所本庁に対して、仮処分を申し立てることになります。東京地方裁判所内の事務分掌として、本案事件と同様に知的財産権侵害は知的財産権法専門部が担当します。これに対して知的財産権侵害を伴わない事件については、東京地方裁判所内の保全部が事件を担当します。

 民事保全法7条  特別の定めがある場合を除き、民事保全の手続に関しては、民事訴訟法 の規定を準用する。

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

関連記事一覧

弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

お問い合わせ

    TOP