著作権侵害の損害賠償請求における遅延損害金の起算点

著作権侵害に基づく損害賠償請求権は、いつの時点で履行遅滞に陥るのでしょうか。

この点、著作権侵害に基づく損害賠償請求権は、民法709条に基づく不法行為債権です。

そして、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を巡る遅延損害金の起算点については、交通事故事案において最高裁判所判例の蓄積があるところです。

つまり、平成 7年 7月14日最高裁第二小法廷判決 平成4年(オ)685号 損害賠償請求事件平成7年最高裁判決は「不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものである(最高裁昭和三四年(オ)第一一七号同三七年九月四日第三小法廷判決・民集一六巻九号一八三四頁参照)。そして、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであつて、一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり、個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではないから(最高裁昭和五五年(オ)第一一一三号同五八年九月六日第三小法廷判決・民集三七巻七号九〇一頁参照)、同一の交通事故によつて生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する本件において、個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はない。」と判示しており、この最高裁法理の著作権侵害への適用が問題となります。

より詳しくはこちらの記事をご参照ください。

https://ns2law.jp/2019/09/14/%e4%ba%a4%e9%80%9a%e4%ba%8b%e6%95%85%e6%90%8d%e5%ae%b3%e8%b3%a0%e5%84%9f%e8%ab%8b%e6%b1%82%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e9%81%85%e5%bb%b6%e6%90%8d%e5%ae%b3%e9%87%91%e3%81%ae%e8%b5%b7%e7%ae%97/

著作権侵害の不法行為への適用

不法行為の時点から全ての損害について遅延損害金が発生するという帰結はもっとも権利者に有利と考えられることから、権利者としては、以上の最高裁法理を元に、著作権侵害にも適用して遅延損害金を請求すべき事になります。

https://ns2law.jp/2018/07/27/%e9%99%84%e5%b8%af%e8%ab%8b%e6%b1%82%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/

つまり、著作権侵害に基づく損害賠償請求権は、逸失利益、積極損害ともに、不法行為時点から請求すべきと考えています。

すると、著作権侵害の日が特定できる場合、同日から遅延損害金を起算して請求すべきことになります。また、著作権侵害の日が明らかでない場合、証拠上判明している著作権侵害を確認できるもっとも早い日から、遅延損害金を起算して請求すべきと考えられます。

インターネット上の著作権侵害の不法行為成立時点とは

では、インターネット上の著作権侵害について、不法行為の成立時点はいつの時点となるでしょうか。

この点は、ツイッターにまとめてツイートしたものがありますので、ご参照ください。

このように、インターネット上の著作権侵害については、一定の場合継続的不法行為として掲載終了時点に不法行為が終了するという考え方も成り立ち得ます。

しかしあくまでインターネットサーバーへの違法アップロードは複製権侵害、送信可能化権侵害ともに、継続犯ではなく状態犯に近いものであると捉えると、掲載終了時ではなく、違法アップロード完了時点(判明している場合は違法掲載の日)から遅延損害金を起算すべきとの考え方に親和的です。

また、実際にも、インターネット上の著作権侵害を継続的不法行為と捉えて、遅延損害金の起算点を違法掲載終了時点と判断すると、違法行為が継続すれば継続するほど遅延損害金の起算点が遅れ、結論として不当です。

以上から、インターネット上の違法アップロードは状態犯的に捉え、遅延損害金の起算点は、違法アップロード完了時点と捉えるべきです(私見)。

このような考え方から、被侵害者としては違法掲載の日から遅延損害金を算定して請求しておくのが間違いがなく、もっとも無難ではないかと考えられます。

もっとも裁判所が継続的な不法行為と判断して判決においては遅延損害金の起算点を遅らせることも考えられますが、その場合も、少なくとも請求の段階では、違法掲載日を起算点にしておくべきとも捉え得ます。

※なお、個別の事案によって異なる事情があるケースもありますので、請求の可否は最終的に弊所有料法律相談を経ない限り自己責任でお願いします。

デジタル著作権やコンテンツ争訟はお気軽にお問い合わせください

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https://con10ts.com/2018/08/03/%e3%83%87%e3%82%b8%e3%82%bf%e3%83%ab%e8%91%97%e4%bd%9c%e6%a8%a9%e6%b3%95%e5%8b%99/
https://con10ts.com/2018/08/08/%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%83%86%e3%83%b3%e3%83%84%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%96%e3%83%ab%e6%b3%95%e5%8b%99/

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

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◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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