「リツイート事件」よくいただく質問と回答

リツイート事件と呼ばれる著作権侵害事案に、令和2年7月21日最高裁判所判例がくだされました。弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)では、事案担当事務所としてリツイート事件について、情報を発信しています。本項では、リツイート事件の概略と、よくある質問とその回答を記載しています。

Contents

リツイート事件はどのような事件でしたか?

リツイート事件は、ツイッターにおける著作権侵害に対する発信者情報開示請求訴訟です。

審理はリツイートを題材としてインラインリンクの著作権法上の評価、最新ログイン情報の開示(発信者情報の射程)など多岐に渡る争点に及びました。

そして、令和2年7月21日、最高裁判所判決が言い渡され、5年に及ぶ訴訟が終了しました。

判決は、これまでの議論の一部に回答し、そして、これからの議論の出発点となる内容だったと感じています。

弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)はリツイート事件にどのように関わったのですか?

弊所ではリツイート事件について一審から上告審まで原告側代理人を務めました。

弊所では、リツイート事件について今後の実務や研究に貢献するために可能な限りの情報発信を行っています。ここでは、その様なリツイート事件に関する情報発信をまとめています。

リツイート事件の概略を教えてください(3分で振り返るリツイート事件)

訴訟で争いになった点(一審原告側(プロ写真家)と一審被告側(ツイッターインク)で意見が対立した点)はどのような点でしょうか?

リツイート事件は文字通り,リツイート者のリツイート行為が違法か適法かが、対立点になった事件でした。

もともと、元ツイート者がインターネットで拾ったと思われる一審原告(プロ写真家)の写真を無断でツイートしました。

このとき、Twitterの仕様上投稿した写真は自動的にトリミングされてしまいます。

この元画像が元ツイートにより自動的にトリミングされるのが、Twitterの仕様です。

さらに別のアカウントが、画像がトリミングされた状態の元ツイートをリツイートしました。

そうすると、さらに新たに画像のトリミングが生じているようにも思われます。

無断で画像をツイートした元ツイートのアカウントが違法であることは,一審原告側と一審被告側で意見が一致しています。

一審原告側と一審被告側で意見が対立しているのは、元ツイートをリツイートしたリツイートのみを行ったアカウントが、違法となるかどうかです。

一審原告側が権利侵害を主張した権利は複数あったのですか?

著作権は複数の権利の束です。また著作者人格権という財産権とは少し性質の異なる権利も保護されています。

一審原告側はリツイートしかしていないアカウントも違法だと主張していました。

これに対して一審被告側は、リツイートしかしていないアカウントは違法ではないと主張していました。

このリツイート者の違法性について、一審原告は権利の束である著作権侵害について複数の権利侵害を主張し、著作者人格権侵害も主張しました。

一審原告がリツイート者の権利侵害として主張した権利は、①複製権、②送信可能化権、③公衆送信権、④公衆伝達権、⑤同一性保持権、⑥氏名表示権、⑦名誉声望保持権の7つの権利です。

一審原告は、リツイート者がこの7つの権利全てを侵害していると主張しました。

反対に、一審被告は、リツイート者はこの7つの権利を全て侵害していないと主張しました。

リツイート者が「権利侵害するものはあるか」裁判所はどう判断しましたか?

第一審裁判所(東京地裁)

第一審は、①から⑦まで、7つ全ての権利をリツイート者は侵害していないのだと結論づけました。これは、被告側の主張を全面的に認めた形です。

控訴審(知財高裁)

控訴審も、第一審と同様に、①から④(著作財産権)と、⑦名誉声望保持権(著作者人格権)の権利侵害は認めませんでした。

これに対して控訴審は、一審とは異なり、リツイート者に対して⑤同一性保持権と⑥氏名表示権という、2つの権利(著作者人格権)の権利侵害を認めました

このように、第一審と控訴審で判断が異なるのは、リツイート者による⑤同一性保持権と、⑥氏名表示権の権利侵害を認めるか認めないかの点です。

⑤同一性保持権と⑥氏名表示権の権利侵害巡る対立点はどのような点でしょうか?

⑤同一性保持権については、A.そもそもリツイートは新たに同一性保持権を侵害するのか、B.同一性保持権を侵害したのは元ツイート者か、リツイート者か、が争われていました。

⑥氏名表示権についても同様に、A.リツイートは氏名表示権を侵害するのか、B.氏名表示権を侵害したのは、リツイート者か元ツイート者かが争われていました。

一審は、両権利についてAの点及びBの点あるいは、少なくともBの点についてリツイート者によって⑤同一性保持権及び⑥氏名表示権のいずれについても権利侵害は生じていないと結論づけました。

これに対して控訴審は、Aの点について、リツイートにより新たな同一性保持権侵害及び氏名表示権侵害が生じ、Bの点について、その侵害主体はリツイート者であるとしました。

上告審(最高裁判所)はどのような判断をしたのでしょうか?

そこで、⑤と⑥の権利侵害を認めなかった第一審と違って、⑤と⑥の権利侵害を認めた控訴審に対して、判決を不服として、被告側が最高裁判所に上告(正確には上告受理申立)をしました。

令和2年7月21日言い渡されたのが、この点についての最高裁判所の判断です。

⑤と⑥の権利について、最高裁判所も権利侵害を認めるのか、あるいは、権利侵害を認めないのか、あるいは、一審とも控訴審とも異なる判断をするのか注目されました。

しかし、裁判所は⑥氏名表示権について権利侵害を認め、⑤同一性保持権について、上告から排斥し判断を回避しました。

トリミングはどのような態様だったのか

原告ウェブログで図が掲載されています。ディズニーのキャラクター、サンリオのキャラクター、すずらんの写真が掲載されていました。下記の花の写真のように、すずらんの写真は3枚の写真の3番目の位置にありました。

トリミング前のすずらん(イメージイラスト)

トリミング後のすずらん(イメージイラスト)

開示を請求しているアカウントについて教えて欲しい

アカウント1、2、3、4、5という5つのアカウントについて開示を請求しています。

アカウント1とアカウント2、3、4、5という2つのグループに分かれます。アカウント1とアカウント2、3、4、5は全く関係がないアカウントです。たまたま同じ写真を無断使用したため、一つの訴訟の中で情報開示を請求しています。

アカウント1は侵害写真をプロフィールに設定していました。

アカウント2、3、4、5については、アカウント2が侵害写真をツイートとして元ツイートをしたアカウントです。

アカウント3、4、5がアカウント2の元ツイートをリツイートしました。

訴訟に至る時系列を教えてほしい

2009年6月9日 すずらん写真撮影(滝野すずらん丘陵公園に於いて)

2009年6月19日 すずらん写真インターネット公開

2014年12月中旬 アカウント2による無断元ツイート

2014年12月中旬ころ アカウント3、4、5によるリツイート

2014年12月26日 アカウント2による無断利用発見

2015年1月26日 ツイッターに書面で通知(郵送先はツイッタージャパン)

2015年2月13日 ツイッター側で画像削除

2015年3月25日 情報開示を求めて原告が札幌地裁でツイッター提訴(札幌地裁)。この時、開示請求の対象には同一人物と考えられたリツイートアカウント3、4、5も含まれていた(しかし、後にアカウント3は別人の可能性が高いことが判明。)。

2015年5月21日 Twitterジャパンより答弁書と移送申立書

2015年6月12日 札幌地裁移送決定 審理は東京地裁に移送されるとともに、移送後東京地裁から米国ツイッター社へ訴状送達

2015年10月21日 東京地裁から送達された訴状を受領したツイッターインク(米国法人)より答弁書提出

開示を請求している情報は何か?

メールアドレス及び、IPアドレスとタイムスタンプです。IPアドレス及びタイムスタンプはツイッターが保有していないか最新ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプについては請求が棄却されるなどして、裁判所は開示を認めていません。

裁判所が開示を認めたのは、一審東京地裁において、アカウント1、2のメールアドレスです。

控訴審知的財産高等裁判所については、アカウント3、4、5のメールアドレスを加えた、アカウント1、2、3、4、5のメールアドレスの開示を認めています。

そこで、アカウント3、4、5のメールアドレスの開示について開示すべきでないとして上告審で争われていました。

これに対して上告審で最高裁判所は、アカウント3、4、5の開示を命じた控訴審判決を支持し、アカウント1、2、3、4、5のメールアドレスが開示されることになりました。

リツイート者の情報開示を請求した経緯

リツイート者であるアカウント3、4、5の情報開示を請求した元々の経緯は、大元の権利侵害者であるアカウント2と、アカウント3、4、5が同一人物だと考えていたからです。そこで、特定につながる情報は少しでも多い方が望ましいことから、同一人物の異なる手がかりが得られるかもしれないと考えて、アカウント3、4、5の開示を請求していました。

しかし、被告ツイッター社から、アカウント2とアカウント3、4、5が同一人物とは言い切れない(ので、アカウント3、4、5の開示はできない)という反論がありました。

この反論をされると、アカウント2、3、4、5がどこの誰かをこれから突き止めようとしている原告側としては如何ともしようがありません。そこで、止む無く、仮にアカウント3、4、5とアカウント2が別人であっても(同一人物と立証できなくても)、リツイートでも権利を侵害するため、開示を認めるべきと反論しました。

また、さらに正確に言えば、アカウント2とアカウント3、4、5は同一人物だと想定していましたが、アカウント3、4、5のうちのアカウント3は、アカウント2と本当に別人である可能性が高いことが訴訟の中でわかりました。

そこで、原告側でアカウント3の請求取り下げも検討しましたが、一審の早い段階でツイッタージャパンに対する請求の取下げを行ったところ、これに同意を得られなかった経緯もあり、結局、アカウント3に対する請求も取り下げないまま、訴訟は終了しました。

もっとも、別人の可能性が高いアカウント3に対しては下記のとおり、損害賠償請求をしません。

リツイート者に対しても損害賠償請求するのか

上記の経緯で、アカウント3に対する開示請求は取り下げを検討しているくらいなので、純然たるリツイートアカウントであるアカウント3に対して損害賠償請求をすることは予定していません。

アカウント2とアカウント4及び5は、原告側は同一人物と考えています。したがって、アカウント2とアカウント4及び5を運用していた人物には、特定出来次第、損害賠償請求をします(そもそも損害賠償請求を前提に裁判所に情報開示を認めていただいています。)。

しかし、まず確実に別人であるアカウント3に対しては、損害賠償請求をすることは予定していません。

原告が運営する写真家事務所宝泉堂のブログでも、リツイート者に対する法的措置は予定していないことが宣明されています。

あくまで、賠償を請求するのは、元ツイート者です。そして、原告側は、リツイートしたアカウント4及び5も同一人物である可能性が高いと考えています。

控訴審で認められていた同一性保持権侵害はどうなったのか

同一性保持権侵害については、上告受理決定の際に、民事訴訟法318条3項により上告理由から排除されています(上告理由3の1)。

上告理由から排除されずに残ったのが、氏名表示権侵害(上告理由3の2)でした。

Twitter Incに対する発信者情報開示についてより詳細な情報はありますか?

ツイッターインクに対する発信者情報開示業務については下記リンク先に詳述しています。

ツイッターに対する発信者情報開示のご依頼について

上記のとおり弊所は、リツイート事件を一審から最高裁まで担当するなど米国Twitter社に対する発信者情報開示請求について業務経験があります。著作権とインターネットが問題となっている事案のほか、誹謗中傷やなりすましなどTwitter上で権利を侵害されている事案においては、弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)に、ご相談をご検討ください。

    リツイート事件に関する記事一覧

    リツイート事件に関する記事の一覧は、下記のとおりです。

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    弁護士齋藤理央

    東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
    【経 歴】

    写真(齋藤先生)_edited.jpg

    大阪府豊中市出身

    早稲田大学教育学部卒業

    大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

    2010年    東京弁護士会登録(第63期)

    2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

    2021年    弁理士実務修習修了

    2022年    今井関口法律事務所参画

    【著 作】

    『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

    『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

    『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

    『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

    『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

    『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

    『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

    【セミナー・研修等】

    『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

    『リツイート事件最高裁判決について』

    『BL同人誌事件判決』

    『インターネットと著作権』

    『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

    『著作権と表現の自由について』

    【主な取扱分野】

    ◆著作権法・著作権訴訟

    ◆インターネット法

    ◆知的財産権法

    ◆損害賠償

    ◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

    【主な担当事件】

    『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

    『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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