付随対象著作物の利用-写真や映像への映り込みについて

『付随対象著作物の利用』写り込みに対する権利制限規定

写真や映像を業務として撮影される方の中には、路上の看板など不可避な映り込みについて、気にされている方も多いのではないでしょうか。例えば、路上の建築物や、看板に印刷されたロゴ・キャラクター・芸能人の写真などがどうしても写真や映像に映り込んでしまっているが、違法ではないか、少し気持ちの悪い思いをされている方もいるのではないでしょうか。

この点、著作権法第30条の2は,写真や映像の撮影,録画等に伴う映り込みついて,著作権を制限しています。

すなわち、撮影等の方法によって著作物を創作するに当たって、撮影の対象とする事物又は音から切り離せない※著作物は、軽佻な構成部分となる場合に限って、著作権の制限を受ける(つまり、映り込みは適法とされる)事になります。

※令和2年10月1日から施行された(有効になった)法改正により、分離困難性や付随対象著作物の果たす役割は、新たな要素とされた営利性とともに、違法性の一判断要素となりました。

これを、付随対象著作物に対する権利制限と言います。

付随対象著作物

写真の撮影、或いは録音又は録画の方法(写真の撮影等)によって著作物を創作する場合、写真の撮影等の対象(被写体等)になる事物等との関係で写真等著作物における軽微な構成部分となる著作物は、付随対象著作物と呼ばれます(著作権法30条の2第1項)。なお、録音は音を物に固定し、又はその固定物を増製することを言います(著作権法2条1項13号)。また、録画は映像を連続して物に固定すること、又は映像を固定した固定物を増製することを言います(著作権法2条1項14号)。

付随対象著作物の権利制限

この、付随対象著作物は、写真の撮影等によって行われる創作に伴って、いずれの方法によるかを問わず、利用することができます(著作権法30条の2第1項本文)※。

また、写真の撮影等によって創作された著作物の利用に伴って利用することができます(著作権法30条の2第2項本文)。

例えば、付随対象著作物が映り込んだ映像を上映したり、付随対象著作物が映り込んだ写真をインターネット上でウェブサイトに掲載して公衆送信することも、認められます。

※改正前は複製・翻案ができました。

付随対象著作物の利用に関する令和2年法改正と条文

付随対象著作物の利用について、令和2年法改正がされ、令和2年10月1日から施行されています。

改正後条文

(付随対象著作物の利用)
第30条の2 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の能様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではない。

改正前条文(参考)

第三十条の二  写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2  前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

付随対象著作物の利用の限界

付随対象著作物の複製・翻案は、付随対象著作物の種類及び用途並びに複製翻案の態様に照らして著作権者の利益を不当に害しない範囲で認められます(著作権法30条の2第1項但書)。また、写真等著作物の利用に伴う付随対象著作物の利用も、同様に付随対象著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らして著作権者の利益を不当に害しない範囲で認められます(著作権法30条の2第2項但書)。すなわち、付随対象著作物の利用は、①付随対象著作物の性質と、②利用の態様の両面から観察して、付随対象著作物の著作権者の利益を不当に害しない範囲で認められるに過ぎません。

次に、著作権法46条は,建築の著作物や、路上などで原作品が公開されている美術の著作物の著作権制限について定めています。すなわち、路上に設置されることが予定されている建築の著作物は、もともと、同じ建物を建てる場合でなければ著作権は制限されることになるため、作品に映り込むことは、適法とされることになります。

したがって、路上などで写真や映像の撮影等を行う場合、路上の建築物や、看板、看板にかかれたロゴ、キャラクターなどが映り込んだとしても、建築物については著作権を侵害することになりません。

また、ロゴやキャラクターはそれぞれ著作物性を満たす可能性があります。また、芸能人など著名人の写真も、写真の著作物となり得ます。しかし、ロゴ・キャラクター・芸能人の写真が自ら創作した著作物に映り込んだとしても、専らそれを作品のテーマにしているような場合は格別、風景などを撮影することを主要な目的としている限り、そこに一部不可避にロゴやキャラクターが映り込んでも、原則的に違法とはならないことになります。

もっとも、映り込みの程度や映り込む著作物の性質などによっては、例外的に著作権の制限が及ばない場合もありますので、どうしてもご自身で判断がつかない場合は、専門家への相談もご検討下さい。

著作権法第四十六条  美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一  彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合

二  建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合

三  前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合

四  専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

付随対象著作物の利用を巡る裁判例

令和2年10月14日東京地方裁判所判決は付随対象著作物の利用について審理判断した裁判例です。

付随対象著作物の利用に関する判示部分

下記は上記裁判例からの付随対象著作物の利用に関する判示部分の抜粋ですが、下線は弊所が付しています。

争点3(本件写真の掲載が付随対象著作物としての利用(著作権法30条の2)に該当するかどうか)について

著作権法30条の2第1項の規定により複製された付随対象著作物の利用が同条の2第2項によって許されるためには,著作物が,写真等著作物に係る写真の撮影等の対象となる事物から分離することが困難で,かつ,当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものでなければならない。

しかし,本件新聞記事2を批評する本件投稿記事を作成するに当たって,本件新聞記事2のみを写真で撮影する,あるいは,本件写真をマスキングして本件新聞記事2及び「聖教新聞」の題字を写真で撮影することは可能であって,本件写真が,本件新聞紙面画像に係る写真の撮影の対象とする事物から分離することが困難であるとはいえない。

また,前提事実及び証拠(甲1の2)によれば,本件写真は,本件新聞紙面画像において,本件新聞記事2と同程度の大きさで,中央からやや上部の位置にカラーで目立つように表示されているものと認められ,独立して鑑賞する対象になり得るといえるから,本件新聞紙面画像における軽微な構成部分となるものともいえない

したがって,本件写真の本件投稿記事への掲載は,付随対象著作物の利用に該当せず,同条を類推適用すべき理由もない。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

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『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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