2019年著作権法学会研究大会➀

2019年6月15日土曜日、著作権法学会研究大会が開催され、参加してきました。すべての時間が非常に勉強になりましたが、実務上特に有用と自身が感じた諸点や、個人的な感想について述べたいと思います。この記事は、個別報告1、著作権におけるパロディの取り扱いについて、個人的に重要と感じた事項や個人的な感想を記しています。

米国におけるパロディの取り扱い

米国では、パロディについて、例えば、原作品に代わる新たな表現上の価値を創出しているか(トランスファーマティブ性)、創作的な合理的な理由付けがあるかなど、文化的な価値の創出とそのための題材として用いる必要性などを重視し、パロディがフェアユースとして適法かを審理判断する傾向にあるとのことです。

フェアユース規定は、米国合衆国法典第17編第107条に規定される以下の条文です。

17 U.S. Code § 107. Limitations on exclusive rights: Fair use

Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include—
(1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2) the nature of the copyrighted work;
(3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.
The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.
(Pub. L. 94–553, title I, § 101, Oct. 19, 1976, 90 Stat. 2546; Pub. L. 101–650, title VI, § 607, Dec. 1, 1990, 104 Stat. 5132; Pub. L. 102–492, Oct. 24, 1992, 106 Stat. 3145.)

もっとも、同規定は抽象的なもので、実際にフェアユースによって適法化されるかは、裁判所が案件ごとに判断することになります。このとき、トランスファーマティブ性(新しい価値の付加がなされているか)などがフェアユース成立の検討のための4要素のうちの、第1要素で検討されるようです。その他、第3要素、第4要素なども検討され、フェアユースによる適法性の判断がくだされるようです。

欧州

欧州はフェアディーリング規定を持つにとどまり、フェアユース規定までは持ちません。しかし、欧州では、パロディは伝統的な文化であり、情報社会指令における権利制限規定に明文化されているとのことです。

そのうえで、パロディに該当するとしても、権利制限規定の具体的な適用の段階において、権利者とパロディ表現者の利害調整(バランス調整)を事案におけるすべての事情を考慮して、行うべきと判示した判例があるとのことです。

英国では、個別にパロディを権利制限規定とするフェアディーリング規定が新設されたとのことです。また、カナダでも同様のパロディを具体的に規定したフェアディーリング規定が新設。

感想

日本では、権利制限規定にパロディを個別に適法化するものはなく、これまで、引用など比較的柔軟性があると考えられる権利制限規定を舞台に適法性が争われてきました。

しかしながら、パロディに厳しく、一般的にも、個別具体的にも権利制限規定をもたない日本はむしろ世界的な趨勢からは少数派のようです。

日本では、引用規程の他、本質的特徴の直接感得性独自要件説をとって、そのなかで、パロディによる新しい価値の創造によって全く別の創作物、表現物に生まれ変わっているため、翻案権侵害否定という主張もあり得るかと思いました。もちろん、非常に厳しい主張になるとは思いますが、本質的特徴直接感得性独自性説に、フェアユース的な調整機能を持たせると、意味がより出てくるのかなと思いました。その試金石としてパロディ事案などは適当ではないかと感じました。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

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