パブリシティ権

パブリシティ権

パブリシティ権とは,氏名,肖像などが有する顧客吸引力などの経済的価値・利益を排他的に利用できる権利を言います。このパブリシティ権の法的性質については,人格権の一内容とする見解や,財産権と捉える見解などがありました。裁判所は,下記のとおり,パブリシティ権を人格権の一内容と捉えています。また,物などが顧客吸引力をなど無体的な価値を有する場合,これをパブリシティ権に準じて保護すべきとの意見もありますが,裁判所はこれを否定しています。

人のパブリシティ権

人のパブリシティ権について,平成24年2月2日最高裁判所第一小法廷判決(ピンクレディー事件)は,「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である」と述べています。

このように最高裁判所は,人のパブリシティ権を,「人格権に由来する権利の一内容を構成する」権利として,法的保護に値する権利と認めました。そのうえで,「肖像等に顧客吸引力を有する者は…その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」として,人のパブリシティ権も無制約ではなく,「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となる」と判示しました。

人のパブリシティ権を法的な利益として認めたものの,その服するべき制限の範囲はやや広範に捉えられているようです。

物のパブリシティ権

上記のように,やや広範な制限付きながら人のパブリシティ権を最高裁判所は認めました。これに対して平成16年2月13日最高裁判所第2小法廷判決は,「現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為に成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである」と述べて,物の(準)パブリシティ権を否定しました。

キャラクターの(準)パブリシティ権

以上を前提とすると,パブリシティ権を人格権と捉える裁判所の捉え方によっては,キャラクターに人格権の一内容としてのパブリシティ権が認められる余地はないことになりそうです。また,物のパブリシティ権(準パブリシティ権)の成立も否定している裁判所の考え方によっては,キャラクターに無体物としてのパブリシティ権を認めることも現状では難しいと言わざるを得ません。

確かに,明文がない限り,抽象的なキャラクターの経済的価値に法的保護を与えるとしても,当該権利が誰に帰属するのか等,困難な問題が発生します。しかし、場合によっては人以上の顧客吸引力を発揮するキャラクターの経済的価値を法的に保護しないことは,不当とも考えられます。現状では,著作権や不正競争防止法などを十分に活用して対応することが求められますが,現行法の保護では不十分との指摘もあります。

やはり,個々の表現を超えた抽象的なキャラクターの顧客吸引力など経済的利益・価値に法的保護を与えるべきと考えられます。

肖像・パブリシティを巡る業務

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

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