不正競争防止法2条6項は、「この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と定めています。
分解すると、①秘密として管理されていること、②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること、③公然と知られていないこと、の3点の要素が必要になることがわかります。
順に、①秘密管理性、②有用性、③非公知性という要件で呼ばれています。
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秘密管理性
秘密管理性の要件は、従業員や取引先に対して当該情報が営業秘密情報に該当することを認識させる点に趣旨があります。したがって、アクセス制限などの措置が採られていることも、秘密情報であることの認識可能性の一要因となります。加えて、マル秘、社内秘、㊙などの秘密情報であることが外形的に表示されていることも重要です。
秘密管理性肯定裁判例
平成27年09月14日東京高等裁判所判決(平成27年(ラ)第1444号)は、「別紙閲覧等制限目録記載二の各部分は、抗告人における希望退職者の募集要領及びその説明、部署の新設とその職務内容、従業員の氏名を含む組織図・各部署の職務分掌、品質保証・品質教育業務等を内容とするものであり、品質の維持管理等を行う品質環境分野における人員体制や戦略に関わるものであるところ、抗告人は、これらの情報について、「〈秘〉」、「社外秘」あるいは「転送・コピー厳禁」等の表示を付して社外への公表を禁止しているものである。そうすると、これらの情報は、一応、不正競争防止法二条六項の事業活動に有用な営業上の情報であって、抗告人において、秘密として管理され、公然と知られていないものであることが認められる」と判示しています。
秘密管理性否定裁判例
平成28年07月27日東京地方裁判所民事29部判決(平成26年(ワ)第17021号/平成26年(ワ)第32223号)
争点1-1(被告Bが本件養成講座で取得したリンパコンディショニング技術は、原告らが共同管理する「営業秘密」〔不競法2条6項〕に当たるか)について
ア 原告らは、別紙「本件営業秘密の具体的内容」に記載の「リンパコンディショニング技術」は、原告らが共同で管理する営業秘密(不競法2条6項)に当たると主張する。
しかしながら、前記認定事実によれば、原告Aは、リンパコンディショニング技術を施術するセラピストを育成するなどの目的で協会を設立し、同技術を習得するための講座として本件養成講座等を提供しているところ、本件養成講座の参加者に配布する本件マニュアルには、本件マニュアルが著作権及び商標権により保護されている旨及び複製等を禁ずる旨が記載されているにとどまり、その内容を第三者に使用又は開示してはならない旨は記載されていないし、本件受講申込書に印刷された「受講約款」にも、講習の録音、撮影を禁ずる旨の記載はあるが、受講により習得した技術を第三者に使用又は開示してはならない旨の記載はない。
また、原告らは、被告Bによるリンパマッサージの施術の様子を撮影した本件施術動画について、原告らの営業秘密たるリンパコンディショニング技術と同一である旨主張しているところ、原告Aは、平成24年8月頃、被告Bが本件施術動画をインターネット上のウェブサイトにアップロードしていることを協会の会員から指摘され、これを機に被告Bと話合いをもっているところ、(原告らの主張を前提とすれば)リンパコンディショニング技術が公開されていることを十分に認識していながら、同技術の公開を禁止したり、本件施術動画の削除を求めたりしなかったというのである。
以上の事情からすれば、原告らが、原告らが主張するところのリンパコンディショニング技術を、情報の利用者である(被告Bを含む)講座受講者において秘密であると認識し得る程度に管理していたと認めることは困難というほかはないし、同技術は、平成24年8月頃には非公知性を喪失しており、原告らが損害賠償の対象とする被告らの行為が行われた時点(平成26年1月から同年6月まで)では、およそ営業秘密たり得ないものであったことが明らかである。
秘密管理指針
企業内の情報を営業秘密として保護するための情報の管理体制に関する指針が、経済産業省により公開されています。
有用性
平成14年2月14日東京地方裁判所判決は、「不正競争防止法にいう「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう(同法2条4項)。不正競争防止法は,このように秘密として管理されている情報のうちで,財やサービスの生産,販売,研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なものに限り保護の対象としているが,この趣旨は,事業者の有する秘密であればどのようなものでも保護されるというのではなく,保護されることに一定の社会的意義と必要性のあるものに保護の対象を限定するということである。すなわち,上記の法の趣旨からすれば,犯罪の手口や脱税の方法等を教示し,あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は,法的な保護の対象に値しないものとして,営業秘密としての保護を受けないものと解すべきである。」と判示しています。
有用性を否定した裁判例
平成27年09月14日東京高等裁判所判決(平成27年(ラ)第1444号)は、「別紙閲覧等制限目録記載一の部分は、基本事件原告作成の証拠説明書中の同目録記載二のうち甲五号証の立証趣旨部分であって、新設された部署の名称やその職務分掌等が簡潔に記載されているにすぎず、かかる情報それ自体は、抗告人の事業活動に有用なものとまでは認められないから、民訴法九二条一項二号の「裳業秘密」が記載されているものとは認められない」と判示しています。
平成28年07月27日大阪地裁判決(平成26年(ワ)第17021号/平成26年(ワ)第32223号)は下記のとおり述べて、有用性を否定しました。
「原告らは、本件合金を使用すると、鉛の含有率が…以下であっても、錫の切削性が失われず、加工、鋳造が容易になる旨主張する。しかし、本件合金がそのような効果を有することを認めるに足りる証拠はない。原告らは、本件合金の開発経緯について、多くのテストと会議を重ねたとして鉛レス地金開発事業地金研究会議の議事録(甲8)及びそのテスト結果の一部(甲34)を提出し、また、多額の開発資金を投じた証拠(甲5、6、24)を提出する。しかし、証拠として提出された上記議事録では、テスト結果の部分は開示されておらず、また、上記テスト結果の一部(甲34)のみでは、地金テストの結果が持つ意味は明らかでなく、多額の投下資金を投じたからといって直ちに本件合金に上記の効果があると認めることもできない。原告製品が本件合金を用いて製造されているとしても、そのことから直ちに別紙記載の一定の成分組成と一定の配合範囲から成る本件合金が原告ら主張の効果を有すると認めることもできない。また、原告ら代表者は、陳述書(甲20)において、本件合金の有用性を説明するが、本件合金がその説明に係る効果を有することは、客観的に確認されるべきものであり、関係者の陳述のみによって直ちにそれを認めることはできない。結局、原告らは、本件合金の技術上の有用性について、これを認めるに足りる証拠を提出していないといわざるを得ず、本件合金について営業秘密としての有用性を認めることはできない。」
非公知性
前掲平成28年07月27日大阪地裁判決(平成26年(ワ)第17021号/平成26年(ワ)第32223号)は「「公然と知られていない」(不正競争防止法2条6項)とは、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることをいうと解されるところ、市場で流通している原告製品から容易に本件合金の成分及び配合比率を分析できるのであれば、本件合金は「公然と知られていないもの」とはいえないため、本件合金の成分及び配合比率を検出するための分析方法及びその費用を検討する」と述べました。
そして、「鉛フリーの錫合金については、…、錫合金を製造する事業者においては、錫合金で使用されている添加成分についておおよその見当を付けることができるといえる。そして、…他の業者が原告製品に使用された合金の組成を知るに当たり、100余りの元素を全て分析する必要があるとはいえない。また、前記のとおり、ICP発光分光分析法は、多くの元素を同時に定性・定量することができる点に特徴がある分析法であり、分析機関では、定量分析については1成分単位の料金(乙A13の例では1成分2500円)が定められているものの、定性分析については1件単位の料金(乙A13の例では1件1万6000円)が定められているにすぎないから、多くの元素を指定して定性分析を行えば、対象物に含有されている成分元素の種類を比較的安価に特定することができるといえる。そして、原告製品を定性分析した場合、証拠(甲21)によれば、錫以外では、本件合金を組成する…元素が検出されると考えられ、他に不純物として存在する元素が検出されると考えても、…、さほど多い種類の元素が不純物として検出されるとは考え難い。そうすると、定量分析は、そうした定性分析によって検出された元素のみを対象に行えば足りるから、原告らが主張するように、100余りの元素の全てを定量分析する必要があるとはいえず、むしろ比較的安価に組成を特定することができるというべきである」と述べて、非公知性を否定しました。