しんじょうくんとちぃたん☆を巡る紛争事例〜ゆるキャラと法的紛争の一事例

事案の流れ

法的手続の開始

公開されいている須崎市の主張書面

東京地裁判断

知財高裁の判断

報道によると令和元年12月25日知的財産高等裁判所は、須崎市の即時抗告について棄却したとのことです。

公益著名商標とゆるキャラ

上記の中で、知財高裁の公益著名商標に関する判断としては、「しんじょう君の商標は、商業的にも活用されるものであって、市町村章のように地方公共団体そのものを示すものではなく公益著名商標には該当しない」とされています。

商標法第三十一条は、「商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。ただし、第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権については、この限りでない。」と定めます。

このように、公益著名商標に当たれば、通常使用権を設定できないと条文上明確に定められているため、しんじょう君の利用許諾は成立しないというのが須崎市の一つの主張でした(須崎市が公開している準備書面より。)。ただし、この条文についてはすでに改正されています。

本件は改正前で、上記条文の適用があること、さらに、地方公共団体のゆるキャラは公益著名商標に当たることを前提とすれば、上記の須崎市の主張はかなり堅いように考えていました。知財高裁も須崎市の請求を斥けたと報道があったとき、この論点をどうクリアしたか、気になっていました。個人的には、通常使用権と利用許諾を分けて考えるか、すでに法改正されているためその趣旨から同条の適用を排除したなどの可能性を考えていました。しかし、知財高裁はそもそもの公益著名商標該当性自体を否定したようです。

では、しんじょう君はなぜ、公益著名商標に当たらないと判断されたのでしょうか。

まず、商標法4条2項は、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者が前項第六号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない」とさだめます。

そして、「前項第六号」にあたる商標法4条1項6号は、公益著名商標について、①「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの」又は②「公益に関する事業であつて営利を目的としないもの」を「表示する標章」であつて「著名なもの」と「同一又は類似の商標」と定めています。

そして、しんじょう君とちぃたん☆は、商標の類似性が認められるのではないかと考えていました。

すると、しんじょう君の商標は、①須崎市という公益団体である地方公共団体そのものを示すものではないとされたものと思われます。さらに、ビジネス展開もされ、商用にも積極的に利用されているため、②公益に関する事業ではあっても、営利を目的としないとまでは言えないと判断されたのではないでしょうか。

そこで、公益著名商標該当性が否定されたのだと思われます。

しかしながら、上記のようにゆるキャラが救済されるケースもあるため、地方公共団体のゆるキャラは、今後そうした救済が受けられないケースも出てきてしまうかもしれません。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

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◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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