ヘアスタイル・メイクの著作物

平成27年12月9日東京地方裁判所判決(平成27年(ワ)第14747号 損害賠償請求事件)が、裁判所ウェブサイトで公開されています

この判例は写真の著作物性など示唆に富んだものであり、また別途レビューしたいと思います。今回は少し違う視点で同判決を紹介しました。同判決書文中でヘアスタイルや化粧について、著作物性が肯定される余地が認められています。つまり、同判例は「原告各写真については,前記(1)で検討したとおり,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるというべきであり,原告各写真の被写体のうちの,独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して,別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても,前記(1)のとおりの原告各写真の内容によれば,原告各写真は,被写体を機械的に撮影し複製したものではなく,カメラマンにより創作されたものというべきである。そうすると,原告各写真の著作者はカメラマンであって,ヘアドレッサーではないというべきである。」と述べています。

さらに抜き出すと、「原告各写真の被写体のうちの,独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して,別途何らかの著作物として成立する余地がある」という部分です。

「ヘアスタイルや、化粧に著作物性!?」とすこしぎょっとされるかもしれません。しかし、考えてみれば著作権法は「舞踊の著作物」を例示著作物として挙げるなど、人間の身体を使った表現を保護の対象から除こうとはしていません。したがって、ヘアスタイルやメイクなど人間の身体を使った表現も創作性を認めうるものは著作物に該当すると判断されてもなんら不思議ではないことになります。ボディペインティングなど、キャンバスを人間の身体に置き換えている側面も見出しうる作品はさらに保護しやすいと考えられます。もっともこれまでの著作物該当性判断に関する裁判所の考え方を敷衍すれば一般に普及している髪型やメイク、一般に普及している髪型から派生している程度の髪型、メイクに関しては創作性が認められないものと考えられます。したがって、著作物性が認められるヘアスタイルやメイクがあるとすれば、普段はとても採用できないような芸術性の高いヘアスタイルやメイクになると考えられますので、日常生活においては殆ど支障がないものと思われます。

弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)は、著作権を重点分野とし、著作権関係の訴訟、交渉、契約、調査、相談業務を重視しています。著作権関連のトラブル、法律問題でお困りの際はお気軽にお問い合わせください。

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    弁護士齋藤理央

    東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
    【経 歴】

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    大阪府豊中市出身

    早稲田大学教育学部卒業

    大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

    2010年    東京弁護士会登録(第63期)

    2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

    2021年    弁理士実務修習修了

    2022年    今井関口法律事務所参画

    【著 作】

    『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

    『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

    『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

    『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

    『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

    『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

    『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

    【セミナー・研修等】

    『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

    『リツイート事件最高裁判決について』

    『BL同人誌事件判決』

    『インターネットと著作権』

    『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

    『著作権と表現の自由について』

    【主な取扱分野】

    ◆著作権法・著作権訴訟

    ◆インターネット法

    ◆知的財産権法

    ◆損害賠償

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    『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

    『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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