インターネット上の名誉毀損と名誉感情侵害

※この記事では弊所PRキャラクターが理解を助けるために会話をしています。

狭義の名誉棄損と名誉感情侵害

外部的名誉と名誉感情

名誉については、①外部的名誉、②名誉感情、③内部的名誉が観念できます。①外部的名誉とは、他人が人に対して与える社会的評価を指します。これに対して②名誉感情は、自分が自分に対して与える主観的な評価を指します。①外部的名誉は、いわば、他者が自分に与える評価であり、②名誉感情は自分が自分に与える評価と考えればイメージが持ちやすいところかもしれません。

ジャックって、海賊としてあんまり非道いことはしなかったんでしょ。
えらい、えらい。

な、なにをいう!
おれは泣く子も黙る海賊だぞ!
デタラメ言うな!!

非道いことをしなかった、という言葉は世間のジャックに対する評価(①外部的名誉)を低下させませんが、本人は傷ついた(②名誉感情)ようです。

しれません、じゃなくてオレは本気で怒ってるぞ!
決闘だ!

内部的名誉

③内部的名誉は、人の評価を離れた本来のその人の社会的な価値や評価のことです。いわば神の与えるその人物に対する評価ともいうべきもので、人が感知できるものではなく(あるいは人が議論しても意味がないものであり)、刑事上も民事上も保護の対象とならないと考えられています。

聞け女王よ!この妖精は、お前の財宝を盗んだとんでもないやつだぞ!!

ひどーい。わたしそんなことしてないー。

大丈夫。そんなこと女王様は信じないよ!

フェアリーよ、昨日わたしのおやつをこっそり食べたのはお前だったのですか?

もう、余計なこと言うからバレちゃったじゃない〜

え・・・?

刑事と民事で法の保護する対象

実際にも、刑事法が保護法益としているのは、①外部的名誉だけです。これに対して民事法上も、①外部的名誉を棄損した場合が名誉棄損に当たります。しかし、民事上の法的な保護は外部的名誉を侵害した場合の名誉毀損が成立するケースだけでなく、②名誉感情も法的保護に値すると考えられ、名誉感情を著しく傷つけた場合も不法行為が成立する場合があります。

くそ、オレはホントにホントに残虐非道だったんだぞ〜
くやしい〜うう〜しくしく・・・

(本気で傷ついてたんだ・・・)

民事上の不法行為

このように、刑事法上は、①外部的名誉の侵害のみを考えればよいところ、民事法においては①外部的名誉毀損と、②名誉感情侵害をわけて考える必要があります。ウェブ、インターネット上の名誉棄損についても、①外部的名誉を傷つけられた狭義の名誉棄損のケースであるのか、②名誉感情を傷つけられた名誉感情侵害のケースであるのか慎重に検討する必要があります。最も両者は重なることも多いものと考えられます。

通常、①外部的名誉と②名誉感情の毀損は一致することが多いと思います!

名誉毀損と名誉感情侵害の違い

①外部的名誉棄損の場合、人が人に対して与える社会的評価が毀損される必要がありますので、名誉棄損的言辞や侮辱的言辞が「公然」となされる必要があります。これに対して、②名誉感情侵害については、いわば被害者自信の自己に対する評価、名誉感情が傷つけば足るので、公然性は必ずしも要件となりません。

また、民法723条に規定された名誉回復措置についても、①外部的名誉毀損、狭義の名誉毀損が成立する場合にのみ求めることが出来、名誉感情侵害については同条の要件を満たさないため名誉回復措置は求められないと解されています。

また、民法723条を論拠とした削除請求というのも、名誉感情侵害については難しいことになります。反面、人格権や条理を根拠とした削除請求は、①外部的名誉毀損のケースでも②名誉感情侵害のケースでも認められる可能性はあるものと思料されます。もっとも、②名誉感情侵害において削除請求が認められるハードルは、仮に削除請求が認められるとしても、表現の自由との調整の問題もあり、かなり高いものになってくるものと思料されます。

法人に対する名誉毀損

法人には②名誉感情を観念しにくい、或いはし得ないところから、法人に対しては①外部的名誉毀損、狭義の名誉毀損が問題となります。特に法人の場合問題となりやすいのは、社会的な信用毀損のケースです。信用棄損についても、①外部的名誉の一内容に包含されると考えられており、信用棄損は名誉棄損に含まれます。したがって、法人の外部的信用を侵害する行為に対しては、不法行為として損害賠償を請求(民法709条)するとともに、名誉回復措置も併せて請求していくことが出来ます(民法723条)。

https://i2law.con10ts.com/2018/07/27/%e5%90%8d%e8%aa%89%e6%af%80%e6%90%8d%e3%81%ae%e3%81%94%e7%9b%b8%e8%ab%87%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

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◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

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『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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