jQuery(ジェイクエリー)の呼び出しと著作権法上の問題点

jQuery(ジェイクエリー)の呼び出しとMITライセンスなどの著作権の関係について、述べていきたいと思います。

当ウェブサイトヘッド部において、スライドショーを作成した際に、jQuery(ジェイクエリー)を利用させていただきました。

基本的には参照したサイトにしたがって、サイトの<head>部に下記の記述を追記して、jQuery(ジェイクエリー)を呼び出す形をとっています(カッコは大文字にしてあります)。

<script type=”text/javascript” src=”http://code.jquery.com/jquery-1.9.1.min.js” class=”wysiwyg-script”></script>

では、このようにオープンソースのファイルを呼び出す形式でサイトを作成することは、著作権法上問題がないのでしょうか。

まず、そもそもとして、jQuery(ジェイクエリー)のようなプログラムについては、日本法が適用される場合、プログラムの著作物として、著作権法上の保護を受けることになります。では、jQuery(ジェイクエリー)のようなプログラムについては、著作権を保有している団体が存在しているアメリカの法律が適用されるのでしょうか。それとも、jQuery(ジェイクエリー)を利用しているサイトを運営している弊所が所属している日本の法律が適用されるのでしょうか。

この点は、ベルヌ条約5条2項の解釈で、日本の法律が適用されると解されています。

ベルヌ条約は、「千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され並びに千九百二十八年六月二日にローマで、千九百四十八年六月二十六日にブリュッセルで、千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十一年七月二十四日にパリで改正された千八百八十六年九月九日の文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」という名前で、外務省のサイト上で公開されています。

日本の著作権法が適用されるとした場合、jQuery(ジェイクエリー)はプログラム(著作権法2条1項10の2号)の著作物(同法2条1項1号)として保護される(同法6条3号)ことになります。

したがって、jQuery(ジェイクエリー)を複製(同法21条)することや、公衆送信(同法23条1項)することは、著作権者を除いて許されず、権利者の許諾なく複製や、公衆送信をした場合、著作権法に違反することになります。

もっとも、jQuery(ジェイクエリー)は、MITライセンスというライセンスポリシーに従う限り、誰に対しても、複製することや、公衆送信することを許諾すると宣言しています。

MITライセンスは、要約すると、以下のようなライセンスとなるとのことです。以下、ウィキペディアより引用。

「1.このソフトウェアを誰でも無償で無制限に扱って良い。ただし、著作権表示および本許諾表示をソフトウェアのすべての複製または重要な部分に記載しなければならない。
2.作者または著作権者は、ソフトウェアに関してなんら責任を負わない。」

jQuery(ジェイクエリー)のライセンスポリシーにおいては基本的にMITライセンスを順守すること、著作権表示を含んだヘッダー部をそのまま記載することが求められています

つぎに、jQuery(ジェイクエリー)を、本記事冒頭のような形で呼び出して使う場合は、上記ライセンスポリシーをどのように順守すればよいのでしょうか。

そもそも、jQuery(ジェイクエリー)を呼び出すことが、許諾を受けなければならない行為に該当するのかを検討したいと思います。

まず、jQuery(ジェイクエリー)を、本記事冒頭のような形で呼び出して使う行為が、公衆送信(送信可能化を含む)に該当するかを検討したいと思います。

公衆送信および、送信可能化は、それぞれ、著作権法2条1項下記各号により下記のとおり定められています。

「七の二   公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。 」

「九の五   送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号及び第四十七条の五第一項第一号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。

ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。」

これを、jQuery(ジェイクエリー)を、本記事冒頭のような形で呼び出して使う場合に適用してみます。

まず、jQuery(ジェイクエリー)を、本記事冒頭のような形で呼び出して使う場合、ウェブサイトを閲覧するクライアントコンピューターと、サーバー(jquery.com)(=自動公衆送信装置(の公衆送信用記録媒体))を直接つなぐことになり、プログラムの授受はクライアントコンピューターと、サーバー(jquery.com)で行われることになります。したがって、自らがサーバー(自動公衆送信装置(の公衆送信用記録媒体))にjQuery(ジェイクエリー)を複製するなどして、クライアントコンピューターが受け取れる状態を新たに作出するわけではありません。したがって、当該行為は、送信可能化の定義には該当しないと思料されます(私見)。また、このような行為は、主体的にプログラムを送信しているとも評価できないことから、公衆送信の定義にも当たらないと考えられます(私見)。もっとも、サーバーを通しての権利者の送信を中継することが送信にあたるとの見解も全く成立しえないわけではありません。したがって、公衆送信に該当する可能性は皆無ではないと考えて、ライセンスポリシーを順守することで著作権の問題をクリアしておくことが十全と考えた方がよいでしょう。

次に、サイトの<head>部に記述(<script type=”text/javascript” src=”http://code.jquery.com/jquery-1.9.1.min.js” class=”wysiwyg-script”></script> )を追記して、jQuery(ジェイクエリー)を呼び出す形式が、著作権法上の複製行為にあたるかを検討しなければなりません。

このとき、クライアントコンピュータのブラウザが通常の設定と想定した場合、問題となるのは、上記記述にしたがって、サイトを閲覧したユーザーのクライアントコンピューター上にキャッシュメモリが作成されることが、複製行為に該当するか否かです。

この際、行為の主体性は、上記呼び出しの記述をしたサイト作成者と、当該サイトを閲覧したユーザー両方に認められると仮定しています。

それぞれが、キャッシュメモリの作成を企図しているということです。

蛇足ですが、アメリカでは、プログラムとはことなる著作物についての判例で、ユーザーについては、キャッシュを作成する行為が複製行為に該当するが、キャッシュメモリ作成についての故意がなく、著作権侵害とはならないとする判例もあるようです。これに対して、サイト作成者はクライアントコンピュータが通常の設定であればキャッシュを作成することを当然認識していると思われるため、故意がないとの理論構成は取りがたいと思われます。したがって、上記呼び出しの記述によって、サイト閲覧者のクライアントコンピューター上にキャッシュメモリを作成せしめるというサイト作成者の行為が、複製行為に該当にするか、検討されなければならないように思われます。

この点、キャッシュメモリの作成は従来、保存の一時性から、複製に該当しないとの見解が強かった部分です。

この見解に従う限り、複製行為に該当しないことから、上記形式の記述でjQuery(ジェイクエリー)を呼び出しても、複製行為にあたらず、著作権侵害は成立しないことになります。

これに対して、キャッシュメモリ作成も一時的とは言えないとして、サイト作成者の記述により、クライアントコンピューターにjQuery(ジェイクエリー)のキャッシュメモリを作成せしめることは、複製にあたるとの見解もあり得ます。

この点については、平成21年法改正で新設された著作権法第四十七条の八も検討しなければなりません。同条は、「電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。 」と定めています。

したがって、仮に、上記記述によって呼び出したjQuery(ジェイクエリー)がクライアントコンピューターにキャッシュとして保存され、これが複製行為に該当すると判断されたとしても、ユーザーのみならず、サイト作成者にも著作権法47条の8が適用(乃至準用)されれば、「複製物の使用が著作権を侵害しない場合」(同条かっこ書)という条件を満たす限り、適法とされることになりそうです。しかし、同条はあくまで受信という表記をもちいユーザー(サイト閲覧者)が自らのクライアントコンピューターにキャッシュを作成する行為を適法とした規定であり、サイト作成者に直接適用することは困難との見方もあり得ます。

そうであるとしても、同条がサイト作成者にも適用されるとします。この場合は、「複製物の使用が著作権を侵害しない場合」という条件を満たすか否かを決するときに、上記MITライセンスにのっとった、「著作権表示を含んだヘッダー部をそのまま記載する。」という、jQuery(ジェイクエリー)のライセンスポリシーを順守しているか否かが問題とされそうです。

また、同条が適用されないとした場合、当該行為は例外的に適法とされるわけではないことから、jQuery(ジェイクエリー)のプライバシーポリシーにしたがって、許諾を受けていることは絶対条件となりそうです。

いずれにしても、MITライセンスの順守は必要といえそうです。では、上記形式の呼び出しは、jQuery(ジェイクエリー)のプライバシーポリシーを順守していると言えるのでしょうか。

この点も、上記呼び出しによってクライアントコンピューターのキャッシュに保存されるjQuery(ジェイクエリー)が、著作権者の頒布先に直接リンクされていることから、ヘッダー部は完全なままクライアントコンピューターに保存されることになり、上記形式での呼び出しにおいては、問題がクリアされることになりそうです。

しかし、呼び出したプログラムが、第三者がjQuery(ジェイクエリー)を改変なり改良したものをサーバーにアップしているような場合別の問題も生じ得ます。つまり、当該第三者が著作権表記のあるヘッダー部を削除していた場合などには、プライバシーポリシーに違反する形でクライアントコンピューターにキャッシュを作成せしめ、権利を侵害したとの誹りを免れないケースもないとは言い切れません。

したがって、呼び出す元のファイルが公式なものであるか否か、十分注意をした方が良いものと考えられます。そのうえで、公式なものではなく、第三者が改良・改変したファイルを呼び出す場合は、MITライセンスが適用されるケースでは著作権表記が完全かなど、確認する必要があると言えるでしょう。

弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)では、ウェブサイトなど、IT上のコンテンツ制作に関する法律問題について、相談を受け付けています。紛争が生じてしまった場合や、紛争を予防した場合など、ご相談をご検討ください。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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