著作権法は何を守っているのか

著作権、或いは、著作権法は何を守る法律なのでしょうか。法律的には当然著作物、ということになりますが、では、著作物、とは、いったいどのような利益をもたらすものであると、捉えられているのでしょうか。

著作権においては、特許などの場合と異なり、進歩性・新規性といった社会の技術水準なり文化水準を明らかに一歩前進させた功績・結果に対する価値までは、要求されていません。進歩性・新規性がなく、既存の表現と同様の表現であっても、真にオリジナルに創作されたのであれば、その価値は保護されるのです。たとえば、誰でも知っている名作とほとんど同じ内容であったとしても、本当にその作品を知らずに創作したのであり、そのことを立証できるときは、後者の作品も著作権法の保護対象となり得ます。

その意味で、著作権法における保護は、社会に新たな価値をもたらしたという結果、功績までは求められておらず、オリジナルの表現、その人の個性を発揮する表現を創作したという労力、努力をもって保護に値するという評価が与えられることになります。

この意味で、著作権法における保護は、表現に時間を割いた、労力を使ったという点に保護を与える努力賞のような側面があると言えるかもしれません。

特許権や意匠権が、新たな水準の引き上げという功績、明確な結果を要件の一つとして要求していることと比しても、この点は著作権の顕著な特徴と言えるかもしれません。

では、著作権において保護されているのは、個性なのか、労力なのか、どちらなのでしょうか。創作性の要件について、現状の判例では、何らかの個性の発現があればよいとされています。逆に、どれだけ表現に労力をかけても、個性の表れがなければ、その表現は保護されないのです。したがって、厳密には、著作権法が、労力を直接保護している、とも言いにくい部分があります。

そうすると、著作権法が保護しているのは、「個性×労力」、つまり、「ほかの誰でもないその人自身が、表現行為を労力を割いて行ったこと」、なのかもしれません。

つまり、著作権法は、国民それぞれに対して、表現行為を推奨しており、それを実行したことに対しては、保護を与えているとも、捉え得るのではないでしょうか。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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