この記事ではインラインリンクに著作権の幇助侵害が認められた札幌地方裁判所・平成28年(ワ )2097号発信者情報開示請求の一連事件いわゆる「ペンギンパレード事件」について情報をまとめています。
Contents
ペンギンパレード事件第一審判決判例データベース掲載状況について
インラインリンク著作権幇助侵害を含んだ札幌地方裁判所・平成28年(ワ 2097号)発信者情報開示請求事件ですが、判例データベース、第1法規社のD1LAW及び、ウェストローJAPANに判決文を提供させて頂きました。
このほど、両データベースともに掲載が完了したとのご連絡いただきましたので、下記に事件番号などを掲載させて頂きます。インラインリンク事案において、著作権侵害を主張する際などに有用な案件と思われますのでご活用ください。
データベースは有料ですが、図書館などで利用できる場合もあるようです。
D1LAW.com判例体系
①【判例ID】28262896 【裁判所】札幌地方裁判所 【裁判年月日】平成29年6月14日 【事件番号】平成28年(ワ)2097号
②【判例ID】28262904 【裁判所】札幌地方裁判所 【裁判年月日】平成30年4月27日 【事件番号】平成28年(ワ)2097号
③【判例ID】28262903 【裁判所】札幌地方裁判所 【裁判年月日】平成30年5月18日 【事件番号】平成28年(ワ)2097号
④【判例ID】28262901 【裁判所】札幌地方裁判所 【裁判年月日】平成30年6月1日 【事件番号】平成28年(ワ)2097号
⑤【判例ID】28262899 【裁判所】札幌地方裁判所 【裁判年月日】平成30年6月15日 【事件番号】平成28年(ワ)2097号
ウェスト・ロー
①裁判年月日 平成29年 6月14日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決 事件番号 平28(ワ)2097号 事件名 発信者情報開示等請求事件 文献番号 2017WLJPCA06146012 https://go.westlawjapan.com/wljp/app/external/doc?docguid=I43213c80956411e8862d010000000000&from-delivery=true
②裁判年月日 平成30年 4月27日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決 事件番号 平28(ワ)2097号 事件名 発信者情報開示等請求事件 文献番号 2018WLJPCA04276004 https://go.westlawjapan.com/wljp/app/external/doc?docguid=I45d14150956411e8862d010000000000&from-delivery=true
③裁判年月日 平成30年 5月18日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決 事件番号 平28(ワ)2097号 事件名 発信者情報開示等請求事件 文献番号 2018WLJPCA05186003 https://go.westlawjapan.com/wljp/app/external/doc?docguid=I464f4af0956411e8862d010000000000&from-delivery=true
④裁判年月日 平成30年 6月 1日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決 事件番号 平28(ワ)2097号 事件名 発信者情報開示等請求事件 文献番号 2018WLJPCA06016002 https://go.westlawjapan.com/wljp/app/external/doc?docguid=I46c194c0956411e8862d010000000000&from-delivery=true
⑤裁判年月日 平成30年 6月15日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決 事件番号 平28(ワ)2097号 事件名 発信者情報開示等請求事件 文献番号 2018WLJPCA06156001 https://go.westlawjapan.com/wljp/app/external/doc?docguid=I473fc570956411e8862d010000000000&from-delivery=true
ペンギンパレード事件②上訴審及び関連事件
上訴審
D1law.com判例体系
控訴審
【判例ID】28273366 【裁判所】札幌高等裁判所 【裁判年月日】平成30年12月13日 【事件番号】平成30年(ネ)173号
上告審
【判例ID】28273367 【裁判所】最高裁判所第二小法廷 【裁判年月日】令和1年6月21日 【事件番号】平成31年(オ)497号
ウェスト・ロー
控訴審
裁判年月日 平成30年12月13日 裁判所名 札幌高裁 裁判区分 判決 事件番号 平30(ネ)173号 事件名 発信者情報開示等請求控訴事件 上訴等 上告 文献番号 2018WLJPCA12136013
上告審
裁判年月日 令和元年 6月21日 裁判所名 最高裁第二小法廷 裁判区分 決定 事件番号 平31(オ)497号 ・ 平31(受)601号 文献番号 2019WLJPCA06216006
間接強制異議審
d1law.com判例体系
【判例ID】28281154 【裁判所】札幌地方裁判所 【裁判年月日】令和2年2月21日 【事件番号】令和1年(ワ)1729号
ウェスト・ロー
裁判年月日 令和 2年 2月21日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決事件番号 令元(ワ)1729号 事件名 請求異議事件 文献番号 2020WLJPCA02218003
URL
ペンギンパレード事件⑤控訴審(ウェスト・ロー)
裁判年月日 平成31年 3月19日 裁判所名 札幌高裁 裁判区分 判決 事件番号 平30(ネ)208号 事件名 発信者情報開示等請求控訴事件 文献番号 2019WLJPCA03196002
※なお、ペンギンパレード事件①−⑤の地裁判例及びペンギンパレード事件②上訴審、間接強制異議審については弊所で許可を得た上で上記各データベース事業者に判例を提供しておりますが、ペンギンパレード事件⑤控訴審についてのみ、弊所は判例提供しておりません。
事件の経緯
https://t.co/o1GpZ6Zh2B#インラインリンク の #著作権 #幇助侵害 が認められた事例です。さらにもう一件判決が出され、一部公開して頂いています。
これで、インラインリンクによる著作権の幇助侵害を認めた事例は3例となりましたが、もともと一つの事件だったものが分離された事例です。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) June 16, 2018
もともとプロバイダ8社を相手に一斉に提訴され、https://t.co/ULezZGMj1f
それが、5件の訴訟手続きに分離されました。
1件だけ相当早く、2017年6月14日に開示の認容判決が出され、
実はインラインリンクの著作権侵害が認められていました。https://t.co/AzBazk0Qv1— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) June 16, 2018
1件だけ判断が早かったのは、相手方の応訴状況などによるものと伺っています。
残る4件が順次、本年5月から判決言渡しとなりました。
このうち、最初の1件についてはインラインリンクの判断は回避されましたhttps://t.co/oQMbkHgUfb
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) June 16, 2018
回避、というより、インラインリンク の議論に踏み込む前に一体の侵害であるととして権利侵害が認められました。
そして、一年後に残る3件について順次著作権の幇助侵害を認める判断が言い渡されたという流れになります。
①平成30年5月18日https://t.co/92bWuu9O1T
②平成30年6月1日https://t.co/nMDnO7Ktqg
③平成30年6月15日https://t.co/o1GpZ6Zh2B— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) June 16, 2018
元は同じ事例ですが、3件続くとインパクトがありますね。
このうち、インラインリンクによる権利侵害のみが争われた、
平成30年6月1日の判例については、全文を公開しています。— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) June 16, 2018
インラインリンク が中心争点だった事案です。リンク先で重要な部分はご紹介いただいていますが、興味のある方は全文もご参照ください。
こちらの3件には共通する法的な主張に関する書面(60頁くらいのもの1通)を提供させて頂きました。
その書面のなかでも触れさせて頂いた「追加された公衆」という考え方も、インラインリンクの幇助侵害肯定に判決文を読む限り影響を与えた可能性があり得ると考えています。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) June 16, 2018
まったくの個人的な感想です。
[ペンギンパレード事件Ⅳ]札幌地方裁判所平成30年6月1日請求認容判決平成28年(ワ)第2097号 発信者情報開示等請求事件「判決書」
平成28年(ワ)第20 9 7号 発信者情報開示等請求事件
口頭弁論終結日 平成30年2月23日
判 決
原告甲
被告 乙株式会社
同訴訟代理人弁護士A
主 文
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,旭山動物園で撮影しウェブサイト上で公表しているペンギンの写真が,原告に無断で複製,改変された上,被告の提供するサーバーに開設されたウェブページに出所を表示することなく不特定多数の者に送信可能な状態に置かれ閲覧に供されており,原告の写真の著作権及び著作者人格権が侵害されているなどと主張して,当該ウェプページの発信者に対する損害賠償請求権を行使するために,当該ウェプページを含むウェプサイトが蔵置されているサーバーを提供し,管理している被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条 1項に基づいて,発信者の氏名,住所等の開示を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実は証拠原因を掲記しない。)
(1)原告は,平成の16年の3月の14日,北海道旭川市内にある旭山動物園で,同園で催されている「ペンギンパレード」を撮影し(別紙写真目録記載の表題欄のうち「オリジナル」と記載されているもの。),デジタル加工を施したもの(同目録表題欄のうち「(デジタル加工・オリジナルサイト掲載)」と記載されているもの。以下,上記の「オリジナル」と記載されているものと併せて「本件写真」という。)を,ウェブサイト(URL省略)上で公表している。なお,ウェブサイト上で公表されている本件写真の画像ファイルには,「Ⓒ省略」の文字及び「省略」の手書サインの文字(以下「本件氏名表示」という。)が埋め込まれている。(甲共1から3まで,甲共5, 6)
(2)氏名不詳者(以下「発信者A」という。)は,本件写真の画像ファイルをインターネット上(URL省略)にアップロードした(甲共11, 弁論の全趣旨。以下,前記URLに係るサイトを「侵害サイトA」といい,侵害サイトAにアップロードされた本件写真の画像ファイルを「画像A」という。)。
(3)別紙侵害サイト目録(被告乙株式会社関係)記載の侵害サイトに投稿された「省略」と題する記事(以下,単に「侵害サイトC2」という。)には,画像AのURLへのインラインリンクが設定されており,侵害サイトC2にアクセスすると,同記事内に画像Aが表示される(甲C6, C7)。インラインリンクとは,リンク元のウェブページが立ち上がった時に,ユーザーの操作を介することなく,自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて,リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう(甲共4 3)。(4)被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社であって,侵害サイトC2の開示関係役務提供者(プロバイダ責任制限法4条1項)である。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件写真の著作物性及び著作者
(原告の主張)
本件写真は,原告が,旭山動物園で行われた「ペンギンパレード」を,背景に人工物が一切入らないようにポジションを選定し,構図等を工夫して創作撮影したものであるから,ウェプページ用にデジタル加工したものを含めて,著作権法に規定する著作物に該当し,本件写真の著作者は原告である。
(被告の主張)
不知。
(2) 被告が別紙発信者目録記載の情報を保有しているか
(原告の主張)
侵害サイトC2は,いわゆる「まとめサイト」であり,サーバーの利用契約をしてサーバー上に侵害サイトC2を蔵置する者と同サイトに記事を投稿する者(発信者)は通常同一であるから,被告は,侵害サイトC2における侵害情報の発信者(以下「発信者C2」という。)に係る氏名,住所及びメールアドレスを保有しているものといえる。
(被告の主張)
被告は,侵害サイトC2が蔵置されているサーバーをレンタルサービスにより提供しているにすぎず,被告が保有しているのは同サービスの契約者に係る情報のみであって,同サイトの発信者に係る情報は保有していない。
上記レンタルサーバーの契約者と発信者C2が同一人物であるかについては不知。
(3)権利侵害の明白性の有無
(原告の主張)
ア
画像Aが原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害することは明らかであるところ,発信者C2は,画像AのURLへのインラインリンクを含む記事(侵害サイトC2) を投稿し,同サイト上に画像Aを表示させ,同サイトの閲覧者の端末上に画像Aを表示させている。発信者C2のかかる行為は,発信者Aと共同で著作権及び著作者人格権を明らかに侵害するものである。また,発信者C2が侵害サイトC2上に画像AのURLへのインラインリンクを設定し,画像Aをわいせつな画像等とともに表示させていることは,著作者の名誉又は声望を害する方法により本件写真を利用しているものといえるから,原告の著作者人格権を侵害していることは明らかである。また,著作権に関する世界知的所有権機関条約(以下「WIPO著作権条約」という。)第8条には,公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に著作物を置くことを許諾する排他的権利が定められており,同条約は著作権法5条の「別段の定め」に該当するものとして国内法としての効力を有するものであるから,発信者C2の行為は,原告の上記権利(著作権)を侵害するものであることは明らかである。イ
被告は,発信者C2はインラインリンクを設定したにすぎず,画像Aのデータが閲覧者の端末に送信される際には侵害サイトC2の蔵置されているサーバーを経由することがないことを理由に,発信者C2が原告の著作権ないし著作者人格権を侵害したものとはいえないと主張する。しかし,インラインリンクが設定されると閲覧者が何らの作為を行わずとも侵害サイトC2上に画像Aが表示されてしまうというインラインリンクの特性及び侵害サイトC2に画像Aを表示させることによって発信者C2が広告収 入等の利益を得ていることを踏まえれば,画像AのURLへのインラインリンクを設定した発信者C2は,画像Aの表示に関して支配的な影響を与えているものというべきであって,著作権ないし著作者人格権侵害の主体として評価すべきである。仮に,インラインリンクを設定しただけでは著作権侵害及び著作者人格権侵害の主体に該当するとはいえなくとも,これを設定することで著作権及び著作者人格権を侵害する画像の閲覧を容易にしているといえることからすれば,インラインリンクを設定する行為は少なくとも著作権等侵害の幇助に該当するというべきであって,発信者C2が原告の本件写真に係る著作権等を侵害していることは明白である。
(被告の主張)
発信者C2は,侵害サイトC2に画像AのURLへのインラインリンクを設定したにすぎない。しかるところ,この設定行為により,画像Aのデータは,侵害サイトAのサーバーから直接侵害サイトC2の閲覧者の端末に送信されるにすぎず,侵害サイトC2の蔵置されたサーバーを経由するものではないから,発信者C2は,本件写真の複製及び公衆送信を行ったとはいえない。また,侵害サイトC2に表示される画像は,本件写真を何ら改変したものでもなく,本件署名も表示されているから,氏名表示権や同一性保持権の侵害があったともいえない。また, WIPO著作権条約と日本の著作権法の間に齟齬(被告の主張)はなく,同条約上の権利が侵害されているともいえない。
原告は,発信者C2を著作権ないし著作者人格権侵害の主体として評価すべきであると主張するが,発信者C2と発信者Aとの間には何らの連絡も支配管理の関係も存在しないのであるから,発信者C2を侵害主体として評価することはできない。
(4)原告の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
(原告の主張)
原告は,本件各発信者らに対し,本件写真の利用料相当額及び慰謝料の損害賠償を請求するために,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件写真の著作物性及び著作者)について
前記前提事実(1)に加え,証拠(甲共2から4まで,甲共6)及び弁論の全趣旨によれば,本件写真は,原告が,旭山動物園で開催された「ペンギンパレード」を,背景に人工物が写り込まないようにポジションを選定した上で撮影したものにデジタル加工を施してウェブサイト上で公表されたものであると認められる。そして.本件写真の構図等に上記で指摘した工夫がされていることからすると,本件写真は,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであって,写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当し,その著作者は原告であると認められる。
2 争点(2)(被告が別紙発信者目録記載の情報を保有しているか)について
被告が,侵害サイトC2が蔵置されているサーパーについて,被告との間でレンタルサービスに係る契約を締結している者(以下,単に「利用契約者」という。)の氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの情報を保有していることは,当事者間に争いがない。
そして,侵害サイトC2は,「2ちゃんねる」における書き込み等をまとめてこれと関連する画像等とともに記事として投稿するブログ(いわゆる「まとめサイト」)であって(甲C6及び弁論の全趣旨),通常,利用契約者と同サーバー上にブログを開設しこれに記事を投稿する者(発信者)は同一であると考えられることからすれば,侵害サイトC2の利用契約者と発信者C2は同一人であると推認され,当該推詔を妨げる特段の事情は見当たらない。
したがって,被告は,発信者C2に係る別紙発信者情報目録記載の情報を保有しているものと認められる。
争点(3)(権利侵害の明白性の有無)について
(1)侵害サイトC2が原告の本件写真に関する著作権を侵害しているかについて検討する。
ア 侵害サイトC2には画像AのURLへのインラインリンクが設定されており,これによって,同サイトを閲覧した者の端末上に画像Aが表示されるものであることは前記前提事実(3)のとおりである。そして,前記前提事実(3)で説示したインラインリンクの仕組みを踏まえると,侵害サイトC2にアクセスした者の端末上に画像Aが表示されるのは,発信者C2が,侵害サイトC2の記事において画像AのURLヘインラインリンクを設定することで,同URLから閲覧者の端末へ画像Aのデータが直接送信されるためであるといえる。
そうすると発信者C2が,侵害サイトC2に画像AのURLへのインラインリンクを設定し,これによって画像Aのデータが侵害サイトC2の記事内に表示されているとしても,同侵害サイトのURLに画像Aのデータが送信されたり,また,同URLからユーザーの端末へ同データが送信されたりすることはないから,侵害サイトC2においてインラインリンクを設定する行為が,それ自体として,画像Aのデータを送信し,又はこれを送信可能化するものであるとはいえず,発信者C2のインラインリンク設定行為が本件写真の公衆送信権を侵害するものであるとはいえない。
また,インラインリンクの設定により,画像Aのデータは,侵害サイトC2のサーバーを介することなく直接閲覧者の端末に送信されており,この過程で画像Aの画像ファイルが複製されているといった事実も認められないことからすれば,発信者C2のインラインリンク設定行為が本件写真の複製権を侵害するものであるともいえない。
イ これに対し,原告は,発信者C2によるインラインリンク設定行為によって,原告のWI PO著作権条約 8条に定める権利が侵害されていると主張する。しかし,同条の規定は,著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5並びに同法23条の文言に照らすと,著作権法の前記各規定と同内容であると解されるから,同法5条にいう「別段の定め」には当たらない。
よって,原告のWI PO著作権条約 8条に定める権利が侵害されていることを理由に,原告の権利侵害が明白であるということはできない。
ウ 原告は,発信者C2は,侵害サイト C2に画像AのURLへのインラインリンクを設定することで同サイトにアクセスした者に対して何らの作為を要求することなく画像Aを閲覧させており,画像Aの表示に関して支配的な影蓉を与えているというべきであるから,著作権侵害の主体として評価すべきであると主張する。しかし,本件写真を改変した画像ファイル(画像A)をサーバーに入力し,これを公衆送信し得る状態を作出したのは発信者 Aであって,発信者 C2は,画像 AのURLヘインラインリンクを設定することによって既に公衆送信されている画像Aを利用しているにすぎないことからすれば,上記送信の主体は,発信者 Aと見るべきであって,発信者C2を公衆送信権の主体と見ることはできない。その他,原告が主張する著作権侵害についても,その一次的な責任は画像Aをアップロードした発信者Aが負うべきであって,発信者C2は同画像のURLにインラインリンクを設定してこれを利用しているにすぎないことからすれば,著作権侵害の主体を発信者 C2と評価することは困難であるといわざるを得ない。
原告は,発信者C2がインラインリンクを設定し,自身のウェブサイト上に画像Aを表示させることにより利益を得ていることからすれば,発信者C2についても著作権侵害の主体として評価すべきであるとも主張するが,本件全証拠を精査しても,発信者 C2が,画像Aの表示により利益を 得ていると認めるに足りる的確な証拠はないから,原告の上記主張は採用することができない。
{2) 他方で,前記前提事実(2)及び弁論の全趣旨によれば,発信者Aは,本件写真の著作権者たる原告の許諾なく,本件写真を画像Aとして複製し,これらの画像をインターネット上にアップロードすることで,不特定多数の者が閲覧できる状態に置いたことが認められるから,発信者 Aには,本件写真の複製権侵害及び公衆送信権侵害が明らかに認められるというべきである。
そして,発信者 C2は,画像AのURLにインラインリンクを設定し,閲覧者の何らの作為を要することなく,自身のブログ記事に画像Aが表示されるように設定することによって,侵害サイトAを閲覧した者だけでなく侵害サイトCを閲覧した者も画像Aを閲覧することができるような状態を作り上げ,不特定多数の者が画像Aにアクセスしてこれを閲覧することを容易にしたものと評価することができる。そうとすれば,発信者 C2は,少なくとも発信者Aによる公衆送信権侵害を割助しているといえ,発信者Aとともに本件写真に関する原告の著作権を侵害していることは明らかであるというべきである。
(3)以上によれば,侵害サイト C2について,発信者 C2によって原告の本件写真に係る著作権(公衆送信権)が侵害されていることは明らかであるというべきである。
4争点(3)(原告の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
弁論の全趣旨によれば,原告は,発信者 C2に対し,著作権侵害及び著作者人格権侵害を理由とする損害賠償を求めることを目的として侵害サイト C2の発信者情報の開示を求めていることが認められ,これらの発信者情報は当該損害賠償請求権の行使のため必要といえるから,原告にはその開示を求める正当な理由があると認められる。
第5結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第5部
別紙
省略
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