著作権の侵害主体

侵害主体の規範的把握

著作権の侵害主体については、カラオケ法理を端緒に、侵害主体を物理的観点からのみ捉えるのではなく、社会・経済的な視点も加味して、規範的に捉える傾向が顕著です。

カラオケ法理と共同不法行為の問題

単に損害賠償請求に限定すれば、教唆者や幇助者も共同不法行為責任(民法719条2項、1項)を負い、全損害について不真正連帯債務を負担する以上、カラオケ法理による侵害主体の規範的修正を行う必要性は高くないとも考えられます。そのうえで、著作権の侵害における教唆行為や、幇助行為の範囲を画していくこと、つまり民法上の共同不法行為の解釈論が問題の本質とも考えられます。
しかし、例えば著作権法112条に定められた差止等請求等、著作権侵害主体に対して権利者が有する著作権法固有の請求を行う場合、侵害主体論は実益を持つことになります。その意味で、共同不法行為(民法719条)と別に侵害主体論を論じる実益があります。もっとも、教唆者・幇助者の一部に差し止め請求等、著作権法上の権利侵害主体性を認める判例もあり、侵害主体論は共同不法行為論の問題も取り込み、百花繚乱の状態です。

著作権侵害の主体が争われたロクラクⅡ事件とまねきTV事件の概要

著作権の侵害主体を検討するうえで欠かせない2つの最高裁判例が、ロクラクⅡ事件とまねきTV事件です。

ロクラクⅡ事件概要

放送されたテレビ放送を、親機ロクラクにデジタル保存し、子機ロクラクに送信して視聴させる行為につき、著作権侵害の有無が争われました。

親機ロクラクと、子機ロクラクを分離したのは、一審判決に記載された原告主張によると、ロクラクⅡが主に外国で日本のテレビ番組を視聴するための仕組みであることから、親機を東京都渋谷区や、静岡県浜松市に設置し、子機を国外に設置する必要があったからです。

実際に「被告サイトには,「ロクラクⅡビデオデッキレンタル」に関するページがあり,そこには,「海外出張でも日本のテレビ番組が毎日楽しめます。」,「ロクラクの親子ビデオ機能を使って日本のテレビ番組が楽しめます。」との表示があり,その下に,「日本のロクラク親機」及び「海外のロクラク子機」という表示とともに,テレビ番組が親機ロクラクによって録画されて子機ロクラクに送られる様子が図示されている(甲24の1)」との事実が裁判所によって指摘されています。

まねきTV事件概要

まねきTV事件は、他社の製品を預かる形で実施された、日本のテレビ番組を海外で視聴させるためのサービス提供の著作権侵害が争点となった事案です。

まねきTV事件はロケーションフリーという訴外会社の製品を利用した海外での日本のテレビ番組を視聴できるというサービスです。被告は、機器などを提供しているわけではなく、訴外会社の製品「ロケーションフリー」を利用した機器の預託管理サービスのみを提供していました。

ロケーションフリーは、ベースステーションから専用モニターやパソコン・プレイステーションポータブルなどの受信装置に映像をリアルタイムで送信(デジタルデータに変換して出力)する機能です。ベースステーションは受信したテレビ放送をデジタルデータに変換して出力することができます。

このロケーションフリーの機能を利用して顧客が購入したロケーションフリーを預かり一括で管理して海外でも放送を視聴できるサービスがまねきTVというサービスでした。

ロケーションフリーは、自動公衆送信装置に当たらないと判断した1審・2審を最高裁は破棄。ロケーションフリーを利用したまねきTVサービスを、送信可能化権、公衆送信権侵害と断じました。

ロクラクⅡ事件上告審

ロクラクⅡに関する最高裁判例(平成21(受)788著作権侵害差止等請求事件 平成23年1月20最高裁判所第一小法廷破棄差戻判決(「放送事業者である上告人らが,「ロクラクⅡ」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダー…を用いたサービスを提供する被上告人に対し,同サービスは各上告人が制作した著作物である放送番組及び各上告人が行う放送に係る音又は影像…についての複製権(著作権法21条,98条)を侵害するなどと主張して,放送番組等の複製の差止め,損害賠償の支払等を求め」た事案。)は,「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者…が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器…に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分である」などとして,複製行為の主体性を判断しました。

つまり、最高裁判決は、複製権侵害の主体について

複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である

と判示したのです。

そのうえで,同判例において,補足意見は,「「カラオケ法理」は,物理的,自然的には行為の主体といえない者について,規範的な観点から行為の主体性を認めるものであって,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断するものとされているところ,同法理については,その法的根拠が明らかでなく,要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし,著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。」と述べています。

また,同補足意見において,「法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。」とも述べています。

このように,著作権における侵害主体は,「単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことである」という修正の視点をもって決定されることになります。

まねきTV事件上告審

本件は,放送事業者である上告人らが,「まねきTV」という名称で,映像配信サービスを提供する被上告人に対し,送信可能化権(著作権法99条の2)及び各上告人が制作した放送番組についての公衆送信権(同法23条1項)を侵害するなどと主張して,差止及び損害賠償を請求した事案です。本件サービスにおいては,Bが販売するロケーションフリーという名称の商品(以下「ロケーションフリー」という。)が用いられられます。しかし、ロケーションフリーは,地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信する放送を利用者からの求めに応じデジタルデータ化し,このデータを自動的に送信する機能を有する機器(以下「ベースステーション」という。)を中核としていました。ロケーションフリーは,ベースステーションと手元の専用モニター等を1対1で対応させることにより,送信される放送を,当該端末機器により視聴することができるしくみでした。その具体的な手順は,① 利用者が,手元の端末機器を操作して特定の放送の送信の指示をする,② その指示がインターネットを介して対応関係を有するベースステーションに伝えられる,③ ベースステーションには,テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が継続的に入力されており,上記送信の指示がされると,これが当該ベースステーションにより自動的にデジタルデータ化される,④ 次いで,このデータがインターネットを介して利用者の手元の端末機器に自動的に送信される,⑤ 利用者が,手元の端末機器を操作して,受信した放送を視聴するというものでした。被上告人は,利用者から入会金月額使用料の支払を受けていました。また、被上告人は、利用者が被上告人から本件サービスを受けるために送付した利用者の所有するベースステーションを,被上告人事業所内に設置し,分配機等を介してテレビアンテナに接続するとともに,ベースステーションのインターネットへの接続を行っていました。
当該事案において、最高裁は、自動公衆送信とは,「公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの」を言うと判示しています(著作権法2条1項9の4号)。そして,まねきTV事件上告審(平成23年1月18日最高裁判所第三小法廷判決(事件番号:平成21年(受)653号事件))判例は,「自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である」と判示し、被上告人の著作権侵害等を認め、破棄差し戻しを判決しました。

このように、まねきTV事件上告審が判示する自動公衆送信の「主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者」となります。

平成23年 1月18日最高裁第三小法廷判決 (平21(受)653号著作権侵害差止等請求事件 〔まねきTV事件・上告審〕破棄差戻し)判示部分抜粋

 

(1) 送信可能化権侵害について
ア 送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。
イ そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。
(2) 公衆送信権侵害について
本件サービスにおいて,テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体が被上告人であることは明らかである上,上記(1)ウのとおり,ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体についても被上告人であるというべきであるから,テレビアンテナから利用者の端末機器に本件番組を送信することは,本件番組の公衆送信に当たるというべきである。
6 以上によれば,ベースステーションがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しないことのみをもって自動公衆送信装置の該当性を否定し,被上告人による送信可能化権の侵害又は公衆送信権の侵害を認めなかった原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。原判決は破棄を免れず,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

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◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

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『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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