蘆花記念文学館事件ー著作権裁判例紹介

事案の概要

『本件は,被控訴人の職員として本件文学館に勤務していた控訴人が,本件文学館 に常設展示又は上映されている本件各展示物について,控訴人が著作権及び著作者 人格権を有するところ,被控訴人が,控訴人の著作権及び著作者人格権を争い,控 訴人に無断で展示,上映をして,控訴人の著作権及び著作者人格権を侵害している と主張して,被控訴人に対し,控訴人が本件各展示物の著作権及び著作者人格権を 有することの確認を求めるとともに,本件各展示物の展示等の差止め並びに本件パ ネル,本件ケース内展示物及び上映装置の撤去・廃棄を求め,さらに,不法行為に 基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求の一部請求として200万円及びこれに 対する最初の不法行為日又は利得日である平成元年11月1日(本件文学館の開館 日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の 割合による遅延損害金又は法定利息の支払を求め』た事案です。

原審の判断

原審(前橋地方裁判所・平成31(ワ)215号・判例集未掲載)『は,本件各展示物は,控訴人が,被控訴人の業務に従事する者としてその職 務上作成した職務著作に当たり,その著作権は被控訴人に帰属すると判断し,本件 各展示物について控訴人が著作権及び著作者人格権を有する著作物であることの確 認を求める中間確認の訴えについては二重起訴に当たるとして却下し,その余の控 訴人の請求を全部棄却し』ました。

控訴審判断のポイント

本件控訴審の判断のポイントは、『当裁判所も,本件各展示物は編集著作物に当たるが,職務著作として被控訴人が その著作者となるものと認める』として、博物館展示パネルなどの著作物性が認められている点、その著作者が職務著作として博物館運営サイドと判断されている点です。

本件パネル独自の著作物性

知財高裁は、『証拠(甲2,乙14,25)によると,本件図録は本件パネルを そのままの配置で印刷したものではなく,写真や文章等の素材は相当程度の範囲で 共通するものの,異なる部分もあり,加えて文章や写真等の素材の配置には,本件 パネル,本件図録のそれぞれにそれらに特有の工夫がされていて,本件図録と本件 パネルは素材の選択及びその配列のいずれについても同一ではないものと認められ る。したがって,本件パネルが本件図録と同一の著作物であるということはできな い』として、本件パネルについて独自の著作物該当性を認めています。

被控訴人は,『本件パネルの内容が,中野好夫著「蘆花徳冨健次郎」(乙27の1~3)や熊本市制九十周年記念「徳冨蘆花展」の図録(乙16) に酷似しており,創作的表現には当たらないし,また,本件パネルが,上記の二つ の書籍の複製品又は翻案品に当たり,複製権や翻案権に抵触している可能性があるから,著作権上の保護の対象にはならない旨の主張』をしました。

しかし,知財高裁は、『証拠(甲3,乙14,16,25,26,乙27の1~3)によると,本件パネルの解説パネルにおいて,解説文の一部に上記「蘆花徳冨健次郎」中の表 現の一部と似た部分があることや,写真の一部に上記「蘆花徳冨健次郎」や上記「徳 冨蘆花展」の図録(乙16)に掲載された写真と同一の素材を用いたものがあるこ とが認められるものの,このことは,本件パネルの編集著作物としての創作性の有 無に影響を与えるものとはいえず,本件パネルは,編集著作物として著作権法上保 護されるものと解されるから,被控訴人の上記主張は採用できない』として、著作物性を否定する被控訴人反論を排斥しています。

本件パネルに対する職務著作の成立

また,知財高裁は、『本件図録と本件パネルに共通する部分があるとしても,使用者である法人 等が「自己の著作の名義の下に公表するもの」であることが職務著作の要件である こと(著作権法15条1項)に照らすと,使用者の発意により従業員等が職務上作 成した共通部分を有する複数の著作物のうちに,職務著作に該当するものとそうで はないものが生じることを著作権法は予定しているというべきである。そして,本 件においては,後記のとおり,本件各展示物は本件文学館を設置運営する被控訴人 が自己の名義により公表するものとして職務著作に当たる一方で,前訴判決1は, 本件図録については控訴人名義により公表するものとして職務著作には当たらない と認めたものである。そうすると,前訴判決1において本件図録の著作権が控訴人に帰属すると判断さ れたからといって,その既判力が,本件各展示物の著作権及び著作者人格権の帰属 の判断に及ぶことはないというべきである』として、職務著作の成立を認めました。

弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)の博物館を巡る法務 

このように、蘆花記念文学館事件は博物館の展示パネルを巡る著作権訴訟でした。弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)は、博物館学芸員資格を有するなど博物館法務に力を入れています。弊所の博物館関連法務の詳しい内容は下記のリンク先をご覧ください。

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

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大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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