訴訟を巡り創作される著作物と著作権法の規定

訴訟を巡り創作される著作物と著作権法の規定は複数あり、整理が必要な場面のひとつと言えます。具体的には、判決等の訴訟関係書類を刊行物やウェブサイトに掲載するときに、検討が必要になります。

判決等裁判

判決等裁判所のなした裁判等も、言語の著作物等に該当し得ます。そうすると、著作権が発生するのが原則です。しかし、著作権法13条3号及び、同条柱書は、「裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの」については、「この章の規定による権利の目的となることができない」と定めます。「この章の規定による権利」とは、著作権及び著作者人格権を指しますので、裁判所の裁判等には、同一性保持権や氏名表示権も及ばないことになります。

第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一 憲法その他の法令
二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

最高裁判所判例等に付された個別意見

では、最高裁判所の判例等に付される最高裁判所裁判官の個別意見は、著作権法13条3号の裁判所の判決等に含まれるのでしょうか。

裁判官の評議における個別意見は、下級審においては、原則として非公表とされています。

裁判所法第75条(評議の秘密)
1項合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
2項 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。

裁判所法第76条(意見を述べる義務) 裁判官は、評議において、その意見を述べなければならない。

これが例外的に、最高裁判所の裁判書においては、裁判所法「第2編最高裁判所」に置かれた、裁判所法11条の規定により個別意見を裁判書に表示して公表することが義務付けられています。

 裁判所法第十一条(裁判官の意見の表示) 裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。

このように、原則非公表とされ、例外的に裁判所法11条により裁判書に表示される最高裁判所裁判官の個別意見は、著作権法13条3号にいう判決等の内容を構成しないという解釈も、十二分に成り立ち得ると考えられます。以上から、刊行物やウェブサイトなどに、最高裁判所裁判官の個別意見を掲載する際は、引用(著作権法32条)の要件を満たすように配慮した方が、無難と考えます。

判決等に組み込まれた訴訟当事者、鑑定人等の作成した書面等

判決書に組み込まれた訴訟当事者(例えば代理人弁護士の作成した準備書面)や鑑定人の書面は、判決に組み込まれた部分を、判決として利用する場合は、著作権法13条3号の適用を受け、著作権及び著作者人格権が及ばないとも考えられます。

また、当事者の書面などは、弁論手続きなどが開かれ、手続が公開され、公開の手続で陳述される場合、著作権法40条1項により利用できることになります。ただし、著作権法40条1項により適法化されるのは著作権の利用行為に限られ、氏名表示権など著作者人格権の適用は排斥されないことに注意が必要です。

著作権法40条1項 公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

2項 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人において行われた公開の演説又は陳述は、前項の規定によるものを除き、報道の目的上正当と認められる場合には、新聞紙若しくは雑誌に掲載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。

3項 前項の規定により放送され、若しくは有線放送され、又は自動公衆送信される演説又は陳述は、受信装置を用いて公に伝達することができる。

同47条の10  第三十一条第一項(第一号に係る部分に限る。以下この条において同じ。)若しくは第三項後段、第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十四条第一項、第三十五条第一項、第三十六条第一項、第三十七条、第三十七条の二(第二号を除く。以下この条において同じ。)、第三十九条第一項、第四十条第一項若しくは第二項、第四十一条から第四十二条の二まで、第四十二条の三第二項又は第四十六条から第四十七条の二までの規定により複製することができる著作物は、これらの規定の適用を受けて作成された複製物(第三十一条第一項若しくは第三項後段、第三十五条第一項、第三十六条第一項又は第四十二条の規定に係る場合にあつては、映画の著作物の複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を含む。以下この条において同じ。)を除く。)の譲渡により公衆に提供することができる。ただし、第三十一条第一項若しくは第三項後段、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十五条第一項、第三十七条第三項、第三十七条の二、第四十一条から第四十二条の二まで、第四十二条の三第二項又は第四十七条の二の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(第三十一条第一項若しくは第三項後段、第三十五条第一項又は第四十二条の規定に係る場合にあつては、映画の著作物の複製物を除く。)を、第三十一条第一項若しくは第三項後段、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十五条第一項、第三十七条第三項、第三十七条の二、第四十一条から第四十二条の二まで、第四十二条の三第二項又は第四十七条の二に定める目的以外の目的のために公衆に譲渡する場合は、この限りでない。

 

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弁護士齋藤理央

東京弁護士会所属/今井関口法律事務所パートナー 弁護士
【経 歴】

写真(齋藤先生)_edited.jpg

大阪府豊中市出身

早稲田大学教育学部卒業

大阪大学法科大学院修了/最高裁判所司法研修所入所(大阪修習)

2010年    東京弁護士会登録(第63期)

2012年    西東京さいとう法律事務所(I2練馬斉藤法律事務所)開設

2021年    弁理士実務修習修了

2022年    今井関口法律事務所参画

【著 作】

『クリエイター必携ネットの権利トラブル解決の極意』(監修・秀和システム)

『マンガまるわかり著作権』(執筆・新星出版社)

『インラインリンクと著作権法上の論点』(執筆・法律実務研究35)

『コロナ下における米国プロバイダに対する発信者情報開示』(執筆・法律実務研究37)

『ファッションロー(オンデマンド生産と法的問題点)』(執筆・発明Theinvention118(6))

『スポーツ大会とスポーツウエアの法的論点』(執筆・発明Theinvention119(1))

『スポーツ大会にみるマーケティングと知的財産権保護の境界』(執筆・発明Theinvention119(2))

【セミナー・研修等】

『企業や商品等のロゴマーク、デザインと法的留意点』

『リツイート事件最高裁判決について』

『BL同人誌事件判決』

『インターネットと著作権』

『少額著作権訴訟と裁判所の選択』

『著作権と表現の自由について』

【主な取扱分野】

◆著作権法・著作権訴訟

◆インターネット法

◆知的財産権法

◆損害賠償

◆刑事弁護(知財事犯・サイバー犯罪)

【主な担当事件】

『リツイート事件』(最判令和2年7月21日等・民集74巻4号等)

『写真トリミング事件』(知財高判令和元年12月26日・金融商事判例1591号)

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