この記事は撤回問題、パロディ問題など多くの法的議論を呼んだ2020年東京五輪オリンピックを巡る知的財産権法上の法律問題について、弊所弁護士齋藤理央のメディアコメントを中心にまとめています。
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オリンピックエンブレム撤回問題
オリンピックのエンブレムが撤回されました※1。
スポンサー企業は、エンブレムの使用許諾に関し,組織委員会と契約し、デザイナー個人とは契約をしてないようです。したがって、損害賠償請求をする場合、組織委に対しては契約上の責任を追及し、デザイナー個人に対しては不法行為責任を追及することになると思われます。
スポンサー企業は組織委員と協賛契約を結び,ゴールドパートナーについては最低でも150億円といわれる多額の協賛金の見返りに,その他のスポンサーも協賛金の拠出を条件にエンブレムなどの知的財産の使用許諾を得ていることを組織委員会も公言(なお組織委は協賛金の額は公言していません。)しています。
協賛金は多額ですが,企業にとっては「デザイナーのエンブレム」を使う対価ではなく,「オリンピック公式エンブレム」を使う対価です。
契約内容にもよりますが,「今回のエンブレム」が使えなくなっても,新しい「オリンピック公式エンブレム」を使用できれば企業は協賛金の対価を得たと評価することになると考えられます。
今回の騒動で味噌がついてしまい,そもそも「オリンピック公式エンブレム」の価値が下がってしまった可能性はありますが,実際に「オリンピック公式エンブレム」の価値が下がったと立証することも,これを金銭に換算するのも相当困難と思われます。
おそらく、スポンサーシップ契約に基づく協賛金については新しい「オリンピック公式エンブレム」を使うことで,法的には対価を得たと評価されることになるのではないでしょうか。。
協賛金は,当初のエンブレム撤回によっても損害賠償の対象になりにくいとしても,当初のエンブレムを既に印刷するなどしてしまっており,使えなくなってしまった商品や,お蔵入りになってしまったCM・宣伝材料などの作成費は,明らかにスポンサー企業に生じた損害と評価できます。
では,企業は無駄になってしまった商品や宣伝材料の製作費などを損害賠償請求できるでしょうか。
もし,エンブレムが盗用であれば,盗用によりエンブレムが使えなくなり,エンブレムを使っている企業に損害が出ることは通常の因果の流れといえます。
しかし,今回の様に,エンブレムと関係のないトートバックや,本来公表が予定されていない展開図に著作物等を盗用したことが明らかになり,これがエンブレムの信用を低下させてスポンサー企業に損害を与えるという流れは,通常のものではないし,予見できたとも思えません。
もし損害賠償が認められるとすれば,展開図の公表のときに,展開図に写真が無断使用されていることを知っていたような場合でしょうが,その際も,賠償義務を負うのは展開図を公表した日以降に印刷された商品や宣伝材料の製作費になると思われます。
組織委はおそらく損害賠償責任を負わないか,負うとしてもかなり限定的な責任に留まるのではないでしょうか。
しかし,デザイナー個人がエンブレム以外の作品で日常的に盗作を繰り返していたとすれば,自身のブランド全体の価値を棄損して企業に損害を与えることも予想できたと評価でき,デザイナー個人がスポンサー企業に損害賠償責任を負う可能性は残るといえるでしょう。
シンボルやロゴマークを巡っては、著作権法のほか、商標法や不正競争防止法も重畳的に問題となります。弊所ではエンブレムやロゴマークを巡る法律問題に対応していますが、詳しい内容は下記リンク先のウェブページをご確認ください。
オリンピックコロナエンブレムパロディ問題
(1) 著作権侵害に当たるのか
日本の法律では、著作権侵害に当たる可能性が高いです。
まず問題となるのが、オリンピックエンブレムがそもそも著作物と言えるかどうかです。
なぜ、今回のエンブレムについて著作物かどうか検討が必要かというと、四角形や円といったどこにでもある図形は著作権法の保護の対象とならないからです。今回のオリンピックのエンブレムも、四角形を円形に配置しているため、著作物性があるか問題となります。
オリンピックエンブレムの著作物性を検討するにあたっては、ピクトグラムについて著作物性を肯定した裁判例が参考になります。裁判例では今回のケースと同様に、四角や丸などの単純な図形を組み合わせたピクトグラムについて、著作物性が肯定されています。裁判例のピクトグラムは大阪のランドマークという具体的な建物等を表現していましたが、今回のオリンピックエンブレムは、多様性など抽象的な対象を表現しています。表現したものが具体的か、抽象的かで著作物性が否定されるのも不当と考えられます。したがって、今回の組市松紋のエンブレムも、著作物性を肯定されると考えます。
次に、今回の特派員協会のデザインは、オリンピックのエンブレムをそのままコピーして、その上にコロナの突起を表すデザインを付け足しています。この場合、オリンピックエンブレムの翻案権侵害となると考えられます。日本では、パロディについて著作権侵害を否定する規定がありません。欧米ではパロディを適法化する条文が直接存在している場合もあり、パロディを正当化する仕組みを持たない日本の著作権法は世界的にはむしろ少し特殊です。いずれにせよ、日本ではパロディを適法化できないため、権利侵害を否定するのであれば、翻案権侵害の成立の中で裁判所の価値判断の余地を認めるアプローチしか採り難いところです。
しかし、元の著作物を土台に新たに創作性を付加した場合、新たな表現に元の著作物が埋没してしまい、本質が読み取れないほどに色あせた場合、著作権侵害とならないという考え方もあります(本質的特徴の直接感得性独自要件説)。今回は量的には特派員協会のデザインの8割くらいをオリンピックエンブレムのコピーが占めていますので、量的には元のエンブレムが新たな表現に埋没しているとは言えません。
しかし、元のエンブレムは、四角形の配列によって多様性など抽象的な対象を表現しているところ、19個の突起を付け足すことで、コロナウィルスの形状という具体的な表現に転嫁し、元のエンブレムが表現していた四角形の関係性は失われていると考えると、翻案権侵害とならないという結論も採りえないとまでは言えないでしょう。元のエンブレムが四角形の組み合わせで抽象的な概念を表現している図案であるため、その表現の本質が何かが問題になります。
しかし、今回のケースは作品の8割くらいを元のオリンピックエンブレムをそのままコピーして、そこに突起物を付け足しているだけなので、これで翻案権侵害を否定するのは、なかなか難しいと思います。
加えて、公表権、同一性保持権など著作者人格権侵害の問題も生じます。著作者人格権は、デザイナーに対する権利侵害となります。
ただし、翻案権侵害の場合、損害賠償を請求できるのは逸失利益、つまりビジネス機会の喪失を補填しろという請求です。つまり、オリンピックエンブレムを利用して新しいデザインをつくりだすときに本来貰える権利料をもらえなかったため、ビジネスチャンスを逃した、これを払えという請求になります。すると、今回組織委員会が抗議した趣旨からは少しズレてくる印象も受けます。
加えて、著作者人格権侵害の問題も生じます。著作者人格権侵害の場合は、勝手に変形をしたり、著作者の名誉を損なうような著作物の利用をしたことについて損害を請求できることになります。ただし、著作者人格権は、エンブレムを創作したデザイナー個人に帰属し、組織委員会など第三者に移転できません。したがって、著作者人格権についてはデザイナー個人に対する権利侵害ということになります。
弊所の著作権を巡る紛争の解決や、法律相談、契約問題、調査などの業務については、下記に詳述しています。
(2) その他の法律に抵触する可能性
今回のエンブレムは、商標登録されているため、無断で類似の商標を使用した点に商標権侵害が成立するかが問題となります。
この時問題になるのが商標的使用の有無です。商標的使用に当たるかが問題となるでしょう。つまり、装飾や意匠として商標を利用する場合、全く同じ商標を利用していても商標的使用に当たらないとして商標権侵害とならない場合があります。今回のケースも、雑誌名や、報道雑誌では時事の事件の象徴的標章が表紙などに大きく記載される例もあること、雑誌の表紙に五輪エンブレムを元にしたデザインが大きく表示されていたとしても、誰も、今回の雑誌をオリンピック協会やその許可を受けた者が発行していると考えない可能性が高いことから、商標的使用に当たらないと判断される可能性があると思います。
ただ、今回のケースでは商標的使用に当たらず、商標権の侵害が否定されても、これとは別に、商標価値の毀損が問題となるでしょう。
商標権という法律上の権利ではなく、商標に対する信用や商標自体のブランド価値という法的な利益侵害の問題です。
この場合は、まさに、風刺として許されるかが実質的に検討されるべき事項と考えられます。
このように、単純に使えば法律違反ではないというのが商標のポイントの一つです。もし、商標についてご相談があれば、弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)の商標法務については下記に詳しくご紹介しています。
アンブッシュマーケティングの問題
オリンピックは、アンブッシュマーケティングも問題にされることが多い催し事です。アンブッシュマーケティングについて、報道記事にコメントしました。
Googleからはこんなブラウザゲームがリリースされています。
アンブッシュマーケティングで注意しなければならない不正競争防止法を巡る弊所の業務については、下記のリンク先ウェブページをご確認ください。
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