地図について著作権法は、「六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」として著作物の一つとして例示しています(著作権法10条1項6号)。
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地図の著作物性に関する裁判例
地図の著作物性は、裁判例でも度々争われています。
例えば、平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト、その控訴審判決である平成20年9月30日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイトや令和4年5月27日東京地方裁判所民事29部判決・裁判所ウェブサイトなどがあります。
平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト
地図の著作物性に関する判断基準
本件土地宝典は,地図の一種であると解されるので,まず,地図の著作物性について検討する。
一般に,地図は,地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって,客観的に表現するものであるから,個性的表現の余地が少なく,文学,音楽,造形美術上の著作に比して,著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である。
しかし,地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては,地図作成者の個性,学識,経験等が重要な役割を果たし得るものであるから,なおそこに創作性が表われ得るものということができる。
そこで,地図の著作物性は,記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して,判断すべきものである。
平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト
本件における当てはめ
本件土地宝典の著作物性について
本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に沿っ て作成されるものであり,次のような特徴を備えている。
ア 本件土地宝典は,公図を主要な素材の一つとするものではあるものの, 地域の特徴に応じて,隣接する複数の公図を選択した上でこれらを接合し て一葉内に収録し,より広範囲の地図として一覧性を高めて公図に記載さ れた情報を表示するものであり,そのため,素材とされた公図の縮尺を変 更し,また,複数の公図を接合する際に,公図上の誤情報があれば,必要 な補正を施して,これを接合している(甲29,甲45,検甲1ないし検 甲4 。) 例えば,公図の縮尺は一般に600分の1であるが,本件土地宝典の一 部である甲29号証においては,一葉内に収録する範囲が各地域ごとに選 択され,複数の公図が接合された結果,その縮尺としては,6000分の 1 5000分の1 2500分の1という三つの縮尺が用いられている 。
また,例えば,甲45号証は,本件土地宝典の一部とそれに対応する公 図(甲44)とを比較対照した原告A作成の報告書であり,その4頁以下 には,右方に本件土地宝典,左方に公図(本件土地宝典に対応する地域の 公図が複数枚にまたがる場合にはこれを接合した後のもの)という形で比 較対照がなされ,34頁以下には,公図と本件土地宝典の表現との主要な 相違点が具体的に記載されているものであるが,これによれば,公図が必 ずしも整合せず,一部の土地が重なり合ってしまうような場合も,本件土 地宝典においては,適宜整理して表示されており(甲45の4頁・A1, 15頁・D3,16頁・D4ほか ,また,公図の東西南北の向きも適宜 ) 修正されて接合されている(甲37の1,甲37の3,甲41の1,甲4 1の2 。) さらに,例えば,本件土地宝典の一部である甲4号証の2,その中に含 まれる土地の登記簿である甲4号証の1,その中に含まれる地域の公図で ある甲4号証の3及び甲4号証の4によれば,甲4号証の2の右方上部に 記載されている富士宮市大中里字西ノ山2151番2の土地と2151番 10の土地については,時期を異にする2枚の公図(甲4の3及び甲4の 4 において 土地の位置 地番の表示 が入れ替わって表示されており ) , ( ) , 公図上は地番表示情報が混乱しているのに対し 本件土地宝典 甲4の2 , ( ) の作成にあたっては,この異なる地番表示情報のうち,登記簿上の地積情 報に適合する地番表示情報が取捨選択されて表示されている。
イ 本件土地宝典においては,素材とされた複数の公図が単に接合されてい るにとどまらず,公図記載の情報のうち,道路,水路,河川など公有地で 民間取引の対象外となる土地やJRの鉄道敷地などについては,公図上の 土地境界情報を記載せずに,白色ないし黒色等で一体的に連続して表示さ れている。また,本件土地宝典においては,地目や地積など登記簿に記載 された情報の一部が取捨選択されて,地番についてはアラビア数字横書き で,地積については漢数字縦書きで,地目については独自の記号で表示さ れている。
さらに,公共施設の位置情報など不動産物件調査の便に資する 情報も適宜追加されて記載されている (甲4の2,甲5,甲6の1,甲 。 24の1,甲24の2,甲25の1,甲25の2,甲26の1の1,甲2 6の1の2 甲26の2の1 甲26の2の2 甲29 甲34 甲35 , , , , , , 甲37の3,甲37の4,甲38の2,甲39の3,甲39の4,甲40 の3,甲40の4,甲41の2,甲42の3,甲43,甲45,検甲1な いし検甲4) 例えば,本件土地宝典の一部である甲4号証の2,その中に含まれる土 地の登記簿である甲4号証の1,その中に含まれる地域の公図である甲4 号証の3及び甲4号証の4によれば,甲4号証の2の右方上部に記載され ている富士宮市大中里字西ノ山2151番2の土地について,土地の形状 及び -2 と表示されている地番といった公図 甲4の3及び甲4の4 「 」 ( ) に記載されている情報に加えて 地積 264平方メートル 及び地目 原 , ( ) ( 野)という登記簿(甲4の1)記載の情報が取捨選択されて表示されてい る。また,公図(甲4の3及び甲4の4)によれば,この2151番2の 土地と2151番10の土地の間には,2151番11の土地が存在する ものと認められる。これに対し,本件土地宝典(甲4の2)においては, 2151番11の土地は,これに隣接する2151番9の土地や2151 番13の土地などとともに,単に帯状に白地化され,一体的に道路として 表示されており,地番表示も土地境界表示もない。
そして,本件土地宝典 においては この白地化された帯状の道路は 公図 甲4の4 において , , ( ) , 「道」と表示された部分(右方下部の2158番6の1の土地と2158 番13の土地との間において分岐し,2158番9の2の土地や2158 番9の3の土地に接しつつ上方に伸びる「道」と表示された部分)と,右 方上部の2152番4の土地に接する地点において,白地化された帯状の 道路としてつながっている。すなわち,本件土地宝典(甲4の2)におい ては,公図上「道」と表示されたものはもちろん,公図上は「道」と表示 されていない土地(例えば,上記の2151番11の土地,2151番9 の土地,2151番13の土地など)についても,現況が「道路」であれ ば,道路の敷地となっている土地同士の境界情報を記載しないことを選択 し,白地化された帯状の道路として表現しているものである。 また,例えば,前掲甲45号証において,本件土地宝典には,公図上は 単に分筆された土地として表示されていても,現況が「水路」や「道路」 ないし「JR鉄道」である場合は,黒塗りされた「水路」や,白地化され た「道路」ないし「線路」として表示されている(甲45,8頁・B1, 17頁・E2,20頁・F1,22頁・F3ほか多数。甲6の1,甲25 の1,甲25の2の各凡例による。)(なお,本件土地宝典では,公図上 「鉄道用地」とされている土地についても,これと隣接する複数の土地と ともに「線路」としての表示(甲6の1,甲25の1,甲25の2の各凡 例による )がされているものもある(甲45,28頁・H2,31頁・ 。 I2)。)
また,本件土地宝典においては,公図にはない「公園」という 情報(同4頁・A1)や,公図の地番区域欄に表示されている「字」の情 報が,地図上に表示されているなど,公図とは視覚効果の異なる表示方法 が用いられている 同9頁・B2 12頁・C3 15頁・D3ほか多数 ( , , )。 さらに 本件土地宝典の一部である甲6号証の1によれば 凡例として , , , 「農協」,「郵便局」,「駐在所・派出所」,「警察署」,「学校」,「支所」,「役 場」,「寺院」,「神社」,「墓地」,「橋梁」,「私鉄」なども列挙されており, 実際に,本件土地宝典においては,公図に記載されている情報に加え,こ のような現地踏査の際に目印となりそうな公共施設の一部についてその所 在情報が取捨選択されて,表示されているものである(甲5,甲26の1 の1,甲26の2の1,甲39の3,検甲1ないし検甲4 。) なお,凡例として挙げられている「同一親番」の情報は,公図に記載さ れた情報ではあるものの,本件土地宝典においては,筆界に独特の記号を 付すことで,公図とは視覚効果の異なる表示方法を用いていることが認め られる(甲6の1 。)
ウ 以上によれば,本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資する という目的に従って,地域の特徴に応じて複数の公図を選択して接合し, 広範囲の地図として一覧性を高め,接合の際に,公図上の誤情報について 必要な補正を行って工夫を凝らし,また,記載すべき公図情報の取捨選択 が行われ,現況に合わせて,公図上は単に分筆された土地として表示され ている複数の土地をそれぞれ道路,水路,線路等としてわかりやすく表示 し,さらに,各公共施設の所在情報や,各土地の不動産登記簿情報である 地積や地目情報を追加表示をし,さらにまた,これらの情報の表現方法に も工夫が施されていると認められるから,その著作物性を肯定することが できる。
平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト
令和4年5月27日東京地方裁判所民事29部判決・裁判所ウェブサイト
令和4年5月27日東京地方裁判所民事29部判決・裁判所ウェブサイトは、ゼンリンの地図について著作物性を認めた裁判例です。
地図の著作物性に関する判断基準
基本的にこれまでの地図の著作物性に関する判断基準を踏襲しています。すなわち、本判例は、平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイトと全く同じ基準で地図の著作物性を判断しています。
同裁判例で、裁判所は、「一般に、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって、客観的に表現するものであるから、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である」とまず平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイトと全く同じ留保を述べています。
そして、裁判所は続けて、「しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということができる」と判示して、「そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものである」という規範を示しています(下線は弊所によります)。このように本判例は規範定立までの論理の流れも含めて、平成20年1月31日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイトを踏襲しています。
本件における当てはめ
本裁判例は、下記のとおり述べて、地図の著作物性を肯定しています。
原告各地図について、証拠(甲64、65、68ないし70、73ないし 84、86ないし123、135、乙30の2)及び弁論の全趣旨によれば、 以下の事実を認めることができる。
ア 原告は、昭和27年頃から、住宅地図を作成販売するようになり、昭和 55年に、日本全国を網羅する住宅地図を完成させ、平成6年頃から、地 域ごとに順次、住宅地図をデジタルデータ化するための改訂作業(以下 「本件改訂」という。)を開始した(甲135、乙30の2)。
本件改訂は、最新の2500分の1の都市計画図等を基図としてデータ 化し、これに、それまでに作成していた住宅地図における居住者名や建物 名、地形情報等を記載し、また、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を 調査して調査原稿に記入した情報を書き加えるなどし、最終的に販売可能な住宅地図に完成させることによって行われた。
配布地域1ないし24の 各配布地域を構成する別紙本件改訂時期等一覧表の「市町村」欄記載の各 市町村に係るゼンリン住宅地図については、同「本件改訂時期」欄記載の 各時期に、本件改訂が行われた。(甲64、65、68ないし70、73 ないし84、86ないし95及び100ないし123の各枝番1、甲96 25 ないし99、135、弁論の全趣旨)
本件改訂より後に更に改訂された原告各地図は、調査員による調査結果を踏まえ、本件改訂により発行された原告各地図から、順次、改訂される 前の原告各地図を基にして、道路や建物等の記載に修正を加えたものである(甲64、65、68ないし70、73ないし84、86ないし95、 100ないし123、弁論の全趣旨)。
イ 本件改訂により発行された原告各地図は、以下の特徴を備えている(甲 64、65、68ないし70、73ないし84、86ないし95及び10 0ないし123の各枝番1、甲96ないし99、弁論の全趣旨)。
(ア) 一つ又は複数の市町村ごとに発行され、基本的に1500分の1の縮 尺で、道路や住宅、宅地の区画等の客観的な状況を表した地図である。 発行の単位となる市町村の区域を複数に分割し、見開きの左右2頁を 用いて一枚の地図が収められており、当該地図の上辺及び下辺に左から AないしJと、右辺及び左辺に上から1ないし5と、それぞれ目盛りが 振られている。 見開きの左の頁の左上に、当該地図の番号が振られており、右の頁の 15 右上に、当該地図の上、右上、右、右下、下、左下、左及び左上の各位 置にある地図の番号が記載されている。
(イ) 地図には、道路又は歩道と宅地との境界線が実線で、道路と歩道との 境界線が破線で、それぞれ記載されており、そのほかに、河川、線路、 道路の中央分離帯等が記載されている。 また、信号機やバス停、橋、歩道橋、階段等は、イラストを用いて記 載されている。 さらに、道路や交差点、バス停、鉄道、河川等の各名称が書き込まれ ており、国道や一方通行の道路には、道路標識を模したマークが付され ている。 山間部については、等高線が記載されている。
(ウ) 地図上の敷地には、当該敷地上にある建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載されており、当該枠線の中に収まるよう に、当該建物等の居住者名、店舗名、建物名等が記載されている。 また、駐車場や公園等として利用されている土地については、駐車場 名や公園名等が記載されている。 土地については、その境界が記載されていることもある。 さらに、住居表示が記載されており、各建物等の上記枠線に地番が記 載されているものもある。
…中略…
(4) 前記(2)によれば、本件改訂により発行された原告各地図は、都市計画図等 を基にしつつ、原告がそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載 し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加える などし、住宅地図として完成させたものであり、目的の地図を容易に検索す ることができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりやすく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載され たり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載された りするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住 宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により 表示したものということができる。したがって、本件改訂により発行された原告各地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法 2条1項)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1 項6号)であると認めるのが相当である。
また、前記(2)アのとおり、本件改訂より後に更に改訂された原告各地図は、 いずれも本件改訂により発行された原告各地図の内容を備えるものであるから、同様に地図の著作物であると認めるのが相当である。
令和4年5月27日東京地方裁判所民事29部判決・裁判所ウェブサイト
地図や図形に関する著作権問題は弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)まで
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