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DSP・SSP・Ad Exchangeとは何か― 現代インターネット広告市場の仕組み ―
現代のインターネット広告は、単なる「広告掲載」ではありません。
かつての広告は、
- テレビCM
- 新聞広告
- 雑誌広告
のように、
「媒体に広告を出す」
ものでした。
しかし現在は、
「誰に広告を見せると最も反応するか」
をAIがリアルタイムで予測し、広告を表示する構造へ変化しています。
つまり現代広告は、
「人間行動の予測・誘導システム」
となっています。
その中心にあるのが、
- DSP
- SSP
- Ad Exchange
です。
インターネット広告の全体構造
現代広告市場を単純化すると、以下のようになります。
広告主
↓
DSP(広告主側AI)
↓
Ad Exchange(広告市場)
↑
SSP(媒体側AI)
↑
サイト・SNS・アプリ
↓
ユーザー
ここでは、
「広告枠」
と、
「ユーザー attention(注目)」
がリアルタイムで売買されています。
SSPとは何か― 広告枠を売る側AI ―
SSP(Supply Side Platform)は、「媒体側の広告販売AI」です。
一般的なウェブサイトの例でいうと、サイト管理者の設置した広告枠がSSPを利用します。サイト管理者は、広告を設置するかどうかを含めて決定します。
SSPの役割
サイトやSNSは、「広告枠をできるだけ高く売りたい」と考えています。
そのためSSPは、
- このユーザーは価値が高い
- どんな広告と相性が良い
- どの価格なら売るか
などを瞬時に判断し最適な広告主の広告を表示します。
具体例
例えばニュースサイトに、
- 東京在住
- 30代男性
- iPhone利用
- 投資ニュース閲覧中
のユーザーが来たとします。
SSPは、
「このユーザーは広告価値が高い」
と判断します。
つまり、
「この attention は高く売れる」
と考えるわけです。
Ad Exchange― 広告オークション市場 ―
Ad Exchangeは、「広告の取引所」のようなものです。
何が行われるのか
SSPから、「このユーザー向け広告枠があります」という情報が送られます。
DSPが入札します
複数のDSPが、「このユーザーに広告を出したい」と判断し、入札を行います。
リアルタイム広告オークション
これを、RTB(Real-Time Bidding)と呼びます。
処理速度
これらの処理は、
約100ミリ秒以下
で行われています。
ユーザーはほとんど気づきません。
DSPとは何か― 広告を買う側AI ―
DSP(Demand Side Platform)は、
「広告主側のAI」
です。
DSPの役割
広告主は例えば、
- 投資に興味がある人
- 東京在住
- 30〜50代
- 仮想通貨関心層
などを指定します。
DSP AIが分析するもの
DSPは、
- 閲覧履歴
- 行動履歴
- 過去クリック
- 購買傾向
- 滞在時間
- 類似ユーザー
などを分析します。
DSA(EUデジタルサービス法)とは何か ― 広告・レコメンド・アルゴリズム透明化法としてのDSA
EUの Digital Services Act(DSA)の本質は、「巨大プラットフォームが情報空間に与える影響」を可視化・統制しようとする点にあります。従来のインターネット法は、「プラットフォームは中立的通信インフラである」という前提に立っていました。しかし現代の巨大プラットフォームは、単なる通信インフラではなく、広告・レコメンド・アルゴリズム・ターゲティングを通じて、「誰に」「何を」「どの順番で」見せるかを決定しています。つまり、情報流通そのものを設計する存在になっています。DSAは、この「情報流通構造」の透明化を志向しています。
特に重要なのが、Article 26、Article 27、Article 39です。
まず、Article 26(Advertising on online platforms)は、広告透明性義務を定めています。同条は、“Providers of online platforms that present advertisements on their online interfaces shall ensure that, for each specific advertisement presented to each individual recipient, the recipients of the service can identify, in a clear, concise and unambiguous manner and in real time, that the information presented is an advertisement.”(オンラインプラットフォーム提供者は、広告が表示される場合、利用者がその情報が広告であることを、明確・簡潔・曖昧でない形でリアルタイムに認識できるようにしなければならない。)と定めています。
次に、Article 27(Recommender system transparency)は、レコメンドシステムの透明化を定めています。同条は、“Providers of online platforms that use recommender systems shall set out in their terms and conditions, in plain and intelligible language, the main parameters used in their recommender systems.”(レコメンドシステムを用いるオンラインプラットフォーム提供者は、そのレコメンドシステムで用いられる主要パラメータを、平易かつ理解可能な言語で利用規約等に記載しなければならない。)と定めています。
DSAは、「アルゴリズムは中立ではない」という前提に立ち、「なぜこの投稿が推薦されたのか」をユーザーが理解できるよう要求しています。
さらに、Article 39(Additional online advertising transparency)は、超巨大プラットフォーム(VLOP)に対し、「広告データベース」の公開を義務付けています。これは、誰が広告を出したのか、いつ出したのか、どんな広告か、誰をターゲットにしたのか等を検索可能にする制度です。従来、広告ターゲティングはブラックボックスでした。しかしDSAは、「情報支配構造」そのものを可視化しようとしています。特にEUが問題視しているのは、詐欺広告、偽情報、選挙操作、AI扇動、未成年ターゲティング、感情操作等です。
情報流通プラットフォーム規制法
日本ではプロバイダ責任制限法が改正され、情報流通プラットフォーム対処法という名称となっています。「プラットフォーム事業者に対する新たな規制の創設-プロバイダ責任制限法改正案をめぐる国会論議-」では、「総務省は、改正案により、偽・誤情報が名誉毀損や著作権侵害、営業上の利益の侵害など、権利侵害に該当する場合には、大規模特定電気通信役務提供者に対し、削除対応の迅速化の義務がかかること、また、権利侵害情報に該当しない場合であっても、運用状況の透明化の義務がかかることから、「各事業者の偽・誤情報に関する取組が国民、利用者に分かりやすいように開示され、プラットフォーム事業者自身による削除基準や運用の見直しなどの対応を促すことにつながる」と答弁した。 また、大谷参考人からも、「偽情報に伴って権利侵害が発生した場合、あるいは透明化規律に基づいて各事業者が打ち立てた削除基準に合致するような情報の場合には一定の効果が認められる」との意見が述べられた」とされています。また、なりすまし広告については、「昨今、SNS上の成り済まし型広告による詐欺被害が増加していることから、改正案による効果が論点となった。松本総務大臣は、成り済まし行為について、閲覧者に財産上の被害をもたらす側面があること、成り済まされた人の社会的評価を下げるなど権利を侵害する可能性もあることから重大な課題であるとの認識を示した上で、改正案では、大規模特定電気通信役務提供者に対し、権利侵害情報に対する削除対応の迅速化や運用状況の透明化の義務を定めていることから、SNS上の成り済まし型広告による詐欺被害に対しても「一定の効果は期待できる」と答弁した」とされています。
日本の「情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法)」は、現状では「米国寄り」ながら「EU要素導入型」といえます。そのため情プラ法は、現在のところ、削除対応、発信者情報開示、窓口整備、透明化義務等、「個別権利侵害対応」が中心となっています。
ただし、日本でも近年、著名人なりすまし投資広告、AI詐欺、SNS扇動、誹謗中傷、偽情報等が問題化しています。つまり、日本も少しずつ「DSA」へ接近する傾向も生じ始めています。その意味で、日本の情プラ法は、「どこまで情報空間へ介入するか」を模索する過渡期といえます。
弁護士法人EIC
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